476.会話 武器商人の話
本日もこんばんは。
この世界の一般的な武器は剣とか斧とか鍬とか拳とかエクスカリバーです。
「大剣をじっと見つめてどうしました?」
「先ほど立ち寄った町で、武器商人から別の武器をセールスされたんです」
「まあ、商売ですからね」
「『剣の大きさ間違ってない?』って言われました」
「あー、なるほどです」
「私は答えました。『間違っているのは私ではありません』と」
「ちゃんと答えたのですね。えらいです」
「文句なら神様に言えってんですよ」
「神職の人間ならまだしも、普通の人では無理ですよ」
「神職が神様に文句言うのはいいんですかね」
「よく言っているじゃないですか」
「へえ、お知り合いに不敬な聖女でもいるんですか」
「いえ、きみです」
「そういえば勇者だった」
「人間界の神職のトップということをお忘れなく」
「今しがた忘れていたところです」
「思い出してくれてよかったです」
「今までもこれからも忘れたいですよ。はー、やれやれ」
「雑に大剣を放り投げましたね」
「いやぁ、重くて」
「勇者さんには軽いはずでは?」
「そのはずだったんですけどね。使えるだけで重いのは重いんですよ」
「軽々と扱っているように見えましたが」
「実は遠心力です」
「衝撃の事実じゃないですか」
「私が剣を振り回している時、実は剣が私を振り回しているのだ」
「深淵みたいに言わないでください」
「私が吹き飛んだ方が、威力が出るかもしれないと思い始めました」
「ケガをするのでやめてくださいね」
「そういうわけで、いいカモを見つけたとたくさんの武器を紹介されました」
「いいカモ」
「私も見つけたんですよ」
「いいカモを?」
「武器商人の隣に鴨がいたんです」
「まじの鴨なんですね」
「おとなしい子でした。商人が武器を指さすと羽をぱたぱたさせて魅力を語っているようでしたよ。残念ながら魔王さんではないので鴨語がわからずスルーしましたけど」
「ぼくでも鴨語はわかりませんよ?」
「どういう敵を専門にしているのか訊かれたので、主に人間と答えました」
「急いで撤回してきてください」
「耳が悪かったようで、魔族に改竄されました」
「さすがに聞き間違いだと思ったのでしょうね」
「手榴弾やナイフをおすすめされました」
「小柄ですし、激しい戦闘は想定していないでしょう」
「あなたはまだ、剣を振り回す快感を知らない――」
「何のキャッチコピーですか?」
「魔族殲滅キャンペーンです」
「なにそれぼくも参加したい」
「各自、好きな剣を持参して倒した魔族の数で競い合う世界大会ですよ」
「ぼく、優勝してもいいですか?」
「お好きどうぞ」
「よし、殺しまくるぞ~。えいえいお~」
「すてきな笑顔で腕まくりしてる」
「勇者さんも、もちろん参加しますよね?」
「いえ、私は特別審査員枠ですので」
「特別審査員」
「優勝賞品はエクスカリバーですよ」
「うわ軽率に聖剣」
「武器商人が売っていたやつ」
「絶対パチモンだ」
「とんでもない値段で売っていました」
「詐欺ですよう」
「銅貨一枚でもおつりがくる」
「安い方なんですね」
「刀身におっきく『えくすかりばー』って書いてありました」
「騙す気がない点は褒めましょう」
「でも、切れ味だけは抜群なんだそうです」
「そこは妥協しないんですね」
「試しに食パン一斤を斬ってくれたのですが、なんとギコギコしませんでした」
「なにそれ欲しいです」
お読みいただきありがとうございました。
主婦に人気の武器店。
魔王「包丁の切れ味が悪いだけで気分が落ち込むのですよ」
勇者「ご自分の手を切れ味抜群の包丁に変化させるのはどうですか」
魔王「生肉を切る度に手を洗うのがめんどうです」
勇者「家庭的な魔王だなぁ」