470.会話 ぬいぐるみの話その③
本日もこんばんは。
負けられない戦いがここにあったりなかったり。
「かわいい勇者さんがかわいいもの好きなのは全世界共通の知識ですが」
「なんですか突然。やめてください」
「特にふわふわもふもふがお好きな勇者さんはぬいぐるみに目がない」
「やめてくださいってば」
「パーティーメンバーの一員であるミソラさんにはぞっこんですよね」
「表現がちょっと古くない?」
「ここまで言ったところで、もうおわかりですよね?」
「全然わからない」
「さみしい!」
「いつものやつですね」
「ぼくも勇者さんの愛を感じたいです」
「毎度のことながらミソラはぬいぐるみだと言っているでしょう」
「人ならざるものという括りならぼくも同じです」
「見た目が人間のひとに言われても」
「ぼく、魔王ですよ?」
「説得力がない」
「魔なるものの頂点に君臨する存在ですよ?」
「そんなすごいひとがぬいぐるみと争っているのですか」
「強敵です」
「現実を見てください」
「魔法の中には物に意思を与えるものもあるそうですよ」
「魔王さんも使えるんですか?」
「めちゃくちゃややこしくて使う気になりません」
「この流れで使わないんですね」
「面倒でややこしくて複雑で入り組んだ魔法は人間の専売特許ですからね」
「あんまり褒めているように聞こえませんが」
「褒めてないですもん」
「褒めてないんかい」
「勇者さんが使うのならベタ褒めしますよ?」
「誰が面倒でややこしい人間ですか」
「そんな勇者さんも好きですよっ」
「お黙りください」
「どうしてミソラさんを見せるのですか」
「お手本をみせようかと」
「ぼくの変化魔法をお望みということで」
「たまには静かにしてみたらいかがですか、ということです」
「言っておきますが、ミソラさんはたぶんうるさいですよ」
「幻聴が聴こえるのですか。耳鼻科に行きましょう」
「勇者さんが『魔王さん、びっぐらぶ……』と言っている声が聴こえます」
「紛れもなく幻聴です」
「勇者さんも、ぼくがだんだんぬいぐるみに見えてきたんじゃないですか?」
「そんなわけある?」
「あると思うこと。それが大事なのです」
「プラシーボ効果でしたっけ」
「マオシーボ効果ですよ」
「新しいものを作らないでください」
「騙されてもいいんですよ?」
「繕わないところは評価しますけど」
「嘘はよくないですが、楽しいものならいいと思うのです」
「幻聴もプラシーボ効果も嘘とは違いますよ」
「いえいえ。想いの力というのはとても強いのです。勇者さんもほら」
「ほらって、なんですか」
「考えてみてください。自分はふわふわもふもふのぬいぐるみだ――と」
「教えを説く雰囲気でとんでもないこと言っている」
「あ、後光を用意していませんでした。やり直させてください」
「後光って用意するものなんですね」
「あると便利だと思い、最近レフ板を買ったんですよ」
「騙す気満々ですね」
「軽率に神になれますよ」
「なりたくないなぁ」
「かわいらしいミソラさんが一気に神々しくなります」
「神々しくなりたいと思うこともないですけどね」
「ちょっと後光が足りないなって時とかありません?」
「あるって答えたひとの隣にはいたくないですね」
「自分の好きなものを早く! 簡単! 便利に神格化できますよ」
「後光発生装置のキャッチコピーみたいに言わないでください」
「かわいくて儚げで美人で勇者さんのことが大好きで後光も差しているんですよ?」
「急にどうしました」
「ぼくとミソラさんの違いってなんですか!」
「そりゃ、もふもふか否か」
お読みいただきありがとうございました。
レフ板を使う魔王が登場するのはこの作品だけです。たぶん。
魔王「後光の強さの加減が難しいんです」
勇者「加減とか言ってる」
魔王「強すぎると目を破壊してしまうので」
勇者「物理的にね」