47.会話 髪が絡まる話
本日もこんばんは。
長い髪って大変そうですね、と思って書きました。
「……うっ、すみません。髪が絡まったようです」
「こちらこそ、ごめんなさい。けっこう派手に絡まりましたね。うわわっ、動かないでください、勇者さん」
「お互い髪が長いので、絡まった箇所が見えるのはありがたいですが……。どういう絡まり方ですか、これ」
「芸術的ですねぇ。白と黒なので余計にきれいです」
「のほほんとしている場合じゃないですよ。ぜんっぜん解けないな……」
「うふふ~」
「人が一生懸命に解いているというのに、なぜ楽しそうなんです」
「合法的に勇者さんのおそばにいられます」
「…………」
「危ないっ! 危ないですよ、仕舞ってください」
「安心してください。切るのは魔王さんではなく髪ですから」
「いやいやいやいや、大剣を使わなくても! 切るじゃなくて斬るになりますし!」
「だいじょうぶですよ。切るのは私の髪ですから」
「えっ! だ、だめですよう」
「なんでですか。長ったらしいし、邪魔だったのでちょうどいい機会なんですが」
「こんなにきれいな黒髪なんですよ? もったいないですって。没収! そぉい」
「あ。なにも投げなくても。私の髪は魔王さんに影響ないじゃないですか」
「そ、そんなことないですう……」
「泣きそうな顔をされても困ります。それに、このままでは動けませんよ」
「だいじょうぶですよ。動く必要は今のところありませんし」
「……。いえ、そうでもないみたいですよ」
「はえ? ハッ⁉ 前方から暴走した魔物がっ!」
「このまま突進されると私の体が吹き飛びますね。髪、切りますよ」
「だだだだだめです。避ければいいんです」
「そうですね。では魔王さん、こちらに」
「勇者さん、こっちです!」
「ぐえっ」
「ぅぐあぁぁ」
「……いや、コントか」
「首が……。首が……。目の前がぐるんぐるん……きゅう~」
「あー、まずいですね。まるでゴールテープみたいになっています。魔王さんもこんなんだし、剣は放り投げられたし、ついに死ぬかもしれませんねぇ。……なんて言ってる間に、魔物が目の前です。遺言でも遺しておくか。魔王さん、魔王さん、私死ぬのであとはお好きにどうぞ。お供え物はフレンチのフルコースと牛ヒレ肉のレアステーキをお願いします。デザートはプレミアムチョコレートパフェと宇治抹茶とあんこのぜんざいで」
「お野菜も食べないとバランスが悪いですよ!」
「あ、起きた」
「飲み物も飲んでください。炭水化物はご飯にしますか、パンにしますか!」
「飲み物は緑茶で、ご飯とパンは両方とも」
「はいはい、了解しました――じゃなくて、魔物は⁉」
「一秒後に私の体が吹き飛ぶところです」
「てりゃあーーー‼ 勇者さんは渡しませーーーんっ‼」
「吹き飛んだのは魔物でしたってね。にしても、すごい勢いで空に……あ、光った」
「ぜえはあ……。間に合ってよかったです。だいじょうぶですか、勇者さ――ぐえっ」
「うぐっ。……今の攻撃で首が…………」
「すみませんすみませんすみません~! そうでした、髪が絡まってるんでした~」
「切るか解くかしないとですよ」
「切るのはいやです……。魔物はぼくが倒すので、ゆっくり解いてくれませんか?」
「魔王なのに魔物を倒していいんですか」
「勇者さんの方が大切です」
「即答……。わかりました、解くのでじっとしていてくださいね」
「おっけーです」
「あー、ここが絡まって……。それならこうして……。あ、いい感じですね」
「えへへ~」
「もうちょい……。むっ、ここも絡まってる……。ここを通して、こっちを……」
「にこにこ~」
「……顔がうるさいです」
「微笑んでいるだけなのに」
「そっち向いててください」
「向かい合っていた方が解きやすいでしょう?」
「……そうですけど」
「ぼくは黙って勇者さんを見つめているだけなのでお気になさらず」
「……気になる。……はあ、やれやれ、あとはここを解いて……、よし、終わりました」
「お見事です」
「ところで、ひとつ思い出したんですけど」
「なんですか?」
「魔王さんって姿を自由に変えられるんでしたよね。……おい、こっち見ろ」
「……いやぁ、すっかり。えへへ」
お読みいただきありがとうございました。
放り投げられた剣は木の幹に突き刺さっています。
魔王「合法的に勇者さんにくっつけることに気づき、今度はヘアアレンジでふたりの髪を結んでみました!」
勇者「ドデカリボン……。ちゃんと解けるんでしょうね」
魔王「もちろんです! ここをくるっとやるだけで簡単に――あれ? あ、あれれ?」
勇者「はあ……」




