469.会話 万華鏡の話
本日もこんばんは。
万華鏡ってどこに売っているのかよくわかりません。
「あれ……。なんだろう、これ」
「お気づきですか、勇者さん!」
「うわ、びっくりした。ずっとそこにいたんですか」
「勇者さんが興味を抱くのを待っていました。そう、ソファーの陰から!」
「暇なんですか」
「勇者さんを構うのに忙しいです。勇者さん勇者さん、その筒、覗いてみてくださいな」
「怪しいものじゃないでしょうね?」
「全く問題ありません!」
「その勢いが怪しい」
「ぼくが安全性を確認済みです」
「じゃあいいか。ここ……ですか?」
「そうですそうです」
「………………」
「どうですか?」
「……すごい……ですね」
「言葉は少ないものの、雰囲気から滲み出る驚きと感動を感じます」
「魔法の世界を見ているようです」
「魔法の世界ですか?」
「はい。あなたの魔王やアナスタシアの魔法はとてもきれいです」
「……あれ? ぼくいま口説かれてる?」
「円状の魔法陣がきらきら輝いているのを間近で見ている気分ですよ」
「口説くならぼくだけがいい! 魔女っ子は除外でお願いします!」
「あ、回すと形が変わるんですね。これまで見てきた魔法を思い出します」
「ぼくだけを口説いてくださいぃぃぃぃぃぃ」
「やかましいですね。なんですか?」
「口説いてください」
「は?」
「すみません。思わず本音が」
「いつもじゃないですか」
「こほん。万華鏡は楽しんでいただけましたか?」
「はい。手の中の魔法みたいで」
「魔力がなくても使える魔法ですね」
「回すと色と形が変わるんです。黄色は光魔法。緑は風魔法のようです」
「勇者さん、うれしそうですね」
「……そうですか?」
「はい。とっても楽しそうです」
「…………魔法、きれいだと思って」
「はい」
「魔王さんやアナスタシアと出会って、魔法がきれいなものだと知りました」
「ぼく、魔王ですけど、だいじょうぶですか?」
「関係ありませんよ。あなたはいつだってあなたです」
「……やっぱり口説かれてるのかな?」
「何か言いました?」
「いえ。解明すべき謎に直面しているだけです」
「万華鏡というものを下に向けて手で包むと、手のひらに魔法陣があるみたいですよ」
「うんうん、すてきですねぇ」
「私、闇属性なのに風魔法を使っているみたいです」
「うんうん、よかったですねぇ」
「私、アナスタシアが使う『トキツカゼ』という魔法が好きなんです」
「緑色の鳥が出てくるやつでしたっけ」
「やさしくて、あったかくて、魔法のよさを知ったんです」
「……悔しいですが、いいことです」
「なつかしいですね。……いま何しているのかな」
「ぼくはここにいますよ?」
「見ればわかります」
「魔王万華鏡でも作りましょうか」
「なんですかそれ」
「ぼくの顔が出てきたり隠れたりします」
「ちょっとおもしろいのやめてください」
「超絶スマイルと聖女スマイルと勇者さん専用スマイルが順番に出てきます」
「やめてくださいってば。……あれ? 作るっていいました?」
「はい。万華鏡は手作りすることができるんですよ」
「……ほんとですか」
「ほんとです。作ってみますか?」
「……は、はい。好きな色でできますか?」
「もちろんです。作り方の順序は紙に書きましたのでご覧ください」
「オブジェクトというのが魔法陣のように見えるのですね。ところでこれ」
「気づきましたか?」
「不器用魔王さん、絶対作れませんよ」
「ザッツライト」
お読みいただきありがとうございました。
売っていないなら作ればいいじゃないと歴史上の人物が言っていません。
勇者「不器用すぎるのも哀れですね」
魔王「勇者さんが作るのを楽しく見ます」
勇者「保護者かな」
魔王「似たようなものです」