468.会話 3秒ルールの話
本日もこんばんは。
数字の漢数字・算用数字についてはあまり気にしないでください。
「あ、パンが……。落ちてしまいましたが、まあ平気です」
「拾うまで二秒でしたね」
「すぐ拾いましたから」
「三秒ルールとして考えればセーフですが、だめです。渡してください」
「え、食べられますよ?」
「食べられますが、だめです。食べられません」
「きれいです」
「きれいじゃないです」
「そもそも、三秒ルールってなんですか?」
「落とした食べ物を三秒以内に拾えば食べてもいいというルールです」
「なにそれ」
「人間が作ったルールですよ」
「信憑性はあるんですか」
「あんまりないです」
「ないんだ」
「食べ物によってアウトかセーフか変わりますが、前提として落ちた食べ物は食べるべきではありません。床や地面に何があるかなど、わかりませんからね」
「なるほど。いただきます」
「話きいてました?」
「きれいです」
「きれいじゃないです」
「宿の床です。掃除されているでしょう」
「掃除しても取りきれない汚れはありますよ」
「パンはきれいに見えます」
「菌やウイルスは目に見えないんですよ」
「少しくらい平気です。今まで死にませんでしたし」
「今まで死ななかっただけとも言えます」
「泥水に落ちた食べ物でも死にませんでした」
「だから、それは単に死ななかっただけ――いまなんて言いました?」
「カビが生えていてもだいじょうぶでした」
「ちょっと待ってちょっと」
「賞味期限が切れていない食べ物を食べる方が少なかったですし」
「待ってほんと」
「むしろ食べ物は地面に落ちているというか」
「お願いもうやめて泣いちゃう」
「このパンなんてとってもきれいでうれしいです」
「わぁぁぁぁん素直な笑顔」
「魔王さんといると清潔な食べ物ばかりで私のお腹も喜んでいますよ」
「泣き喚いていいかなぁ?」
「ていうか、清潔な食べ物が存在することに驚きです」
「勇者さんそろそろ、そろそろこの辺で」
「ということで、いただきます」
「この流れで止めにくいですが、だめです」
「なんでぇ」
「もったいないことは承知で捨ててください」
「なんてことを」
「ぼくに渡してください」
「魔王みたいなこと言わないでください」
「わかりました。動物のエサにします」
「それなら……」
「わかっていただけてなによりです」
「落ちていない方をエサにしてください」
「話きいてました?」
「落ちたものを食べさせるなんてかわいそうです」
「自分をもっと大事にして?」
「三秒以内なら私は無敵になる勇者補正」
「そんなものないでしょう」
「三秒間だけすべての攻撃を無効化します」
「菌やウイルスも?」
「そういうのは対象外ですね」
「だめじゃないですか」
「魔王さんには効きますよ」
「勇者さんに攻撃なんてしませんよ」
「私からパンを奪おうとする」
「きみの健康を守るためです」
「こんなにきれいなんですよ?」
「まず価値観から変えていきましょう」
「どんなふうに?」
「三秒ルール廃止です」
「教えたのは魔王さんですよ」
お読みいただきありがとうございました。
あの謎のルール、どこで生まれたのでしょうね。
勇者「没収されちゃった……」
魔王「いくらでも買ってあげますから」
勇者「ちなみに、なんのエサになるんですか?」
魔王「今から考えます」