467.会話 事件の話
本日もこんばんは。
平和な事件なのでご安心ください。
「魔王さん、事件です」
「じっ、じじじじじじじじじじ事案⁉」
「違います。事件です」
「びっくりしました。ついにぼくの出番かと」
「何のことですか? ていうか、事案も事件も似た意味でしょう」
「あ、いえ、スラング的な意味の方かと思いまして」
「よくわかりません」
「いいのですいいのです。それで、事件とは?」
「近くのお店に強盗が入ったらしく」
「まじの事件じゃないですか」
「包丁を持った人が私の方に走ってきて」
「えっ⁉ けがしていないでしょうね⁉」
「目出し帽が小さかったようで、石につまづいて転んでいました」
「間抜けでよかった」
「私は包丁を取り上げておまわりさんに渡しただけです」
「ナイスですよ」
「転んだ拍子にバラまかれた銀貨も回収してお店の人に返しました」
「偉いですね」
「お礼にと言われ、お店で売っているサンドイッチをもらいました」
「珍しく勇者さんに向けられた謝礼ですね!」
「やかましいです。たくさんもらったので、ご一緒にどうですか」
「いただきます。それにしても、ぼくの知らぬ間に強盗事件に遭遇しているなんて……」
「世の中、物騒ですね」
「心のこもっていない声ですね」
「人間がすべて滅べば犯罪もなくなりますが、いかがでしょう」
「魔王みたいな提案しないでください」
「いい案だと思ったのですが」
「魔王的にはいい案ですが、勇者的にはことごとくアウトです」
「デデーン、勇者アウト」
「勇者さんのお尻はぼくが守ります!」
「かつてなくアウトな発言が飛び出しましたね」
「知っていますか勇者さん。見た目が聖なるひとだと、大体のことは許されるのです」
「すてきな笑顔でまた問題発言」
「美少女も許されますよっ」
「どんな犯罪でも?」
「常識の範囲内かつ法律に違反しない程度ならば」
「それはただのいたずらです」
「いたずらにも程度というものはあるでしょう」
「どのくらいからアウトですか」
「ひとによって様々ですが、ぼくの場合、こんにゃくを使われると困りますね」
「おもむろに冷蔵庫から取り出す様を見せたり、視界の端でチラつかせたり、ぺちゃりぺちゃりと音をたてたり、ぷるんぷるん具合をアピールしたりですか」
「おわっ……ぼくにとっては存在を感じるだけでヴッかなりダメージおえぁきますからねううっぁぅあまりからかわないでいただけるとうぐあぁ世界を壊しかねませうんえぇ」
「なるほど。いたずらが発展して犯罪に繋がることもある、と」
「理解していただけましたかありがとうございますすぐに仕舞ってください」
「笑顔のまま震えている」
「いいですか勇者さん。事件は起こすものではなく解決するものです」
「こんにゃく事件を解決するには、こんにゃくを食べる」
「こんにゃくから離れてください」
「私は探偵ではありません。事件は遠くからみるものです」
「たしかに、事件はおまわりさんの管轄ですが、もし魔なるものによる事件ならば?」
「私ではありません」
「きみですよ。魔なるものは勇者の管轄です」
「事件など起きなければいいのです」
「ズバリそういうことです。では、事件が起きる前に魔なるものを倒しましょう」
「誘導されていたとは」
「こんにゃくに負けずに脳を働かせたぼくの功績です」
「思ったのですが、犯人が犯行に及ぶ前に止めれば、未遂ですよね」
「そうですよ」
「勇者だと思われている魔王さんがいる場で犯罪やるぞって人はあまりいないはず」
「聖女でも似たような働きを得ますよ」
「であれば、常日頃から居座ればいいのです」
「居座る」
「時々、ガンを飛ばすとなお良し」
「通報されますよ」
「そうして、脅迫罪により魔王さんは逮捕されて一件落着」
「悪い人が逮捕されてよかったです。よくないです。ぼくじゃないですか」
「魔王さんは魔王なので悪いひとですよ」
「そうでした」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんはいつも事案ぎりぎりみたいなものです。
勇者「存在が事件である魔王さんから一言どうぞ」
魔王「悪い事したらぼくが捕まえますよっ」
勇者「何も聞こえませんでしたね」
魔王「そんな」