466.会話 浦島太郎の話
本日もこんばんは。
今日の犠牲はこちらの物語。
「私、とても不思議に思ったのですが」
「疑問は探究の第一歩です。とてもすばらしいことですよ」
「まず、玉手箱って魔法道具ですよね?」
「続けてください」
「開けてはいけないものを渡すのはどうかと思うんです」
「続けてください」
「開けちゃだめなら最初から渡すなって思いませんか?」
「すごく不満そうなお顔」
「お土産をくれるなら、金品もしくはごちそうをタッパーに入れてほしい」
「勇者さんらしい」
「開けたら鶴もしくは老人はちょっと」
「片方はもはや人間ですらないですもんね」
「他者の姿を変える変化魔法もあるなんて驚きです」
「見た目が鶴になるだけなら変化魔法、性質も鶴になるのなら性質変換魔法です」
「ムズカシイ」
「後者は人間を人ならざるものに変質させることもできます」
「本当は怖いおとぎ話じゃないですか」
「かなり高度な魔法ですよ。入り組んだ構築をしているので、魔族はあまり使いません」
「めんどくさい人間が使うってことですか」
「そうですね。人間はめんどくさいのが得意ですから」
「何も褒められている気がしない」
「まあまあ、そんなことよりお昼ご飯にしましょうね」
「おひる、おひる」
「勇者さんは、ごちそうと言われればあっさり竜宮城についていきそうですね」
「誰が食いしん坊ですか」
「勇者さんホイホイ」
「怒りますよ」
「怒ってくれるんですか? ぜひっ」
「そういえば、やべえやつだった」
「勇者さん、死んだ魚の目をしていますよ」
「次の議論に移りましょう」
「華麗なるスルー」
「浦島さんをもてなす竜宮城のお姫様こと乙姫さんですが、魔女ですね」
「犯人がわかった探偵みたいに言わないでください」
「水属性であることは間違いありません。水中でも死なない魔法とはなかなか」
「短時間なら簡単ですが、暮らすまではそうそうできることではないかと」
「ここで疑問です」
「クイズ番組かと思いましたよ」
「乙姫さんは、なぜ開けてはならない玉手箱を浦島さんに渡したのでしょうか?」
「色々な説が囁かれているそうですが、勇者さんのお考えはいかに」
「実は、玉手箱はとても強力な呪物だったんです」
「呪物」
「海に生きる乙姫さんは、海に捨てることはできません。ならば、陸に生きる浦島さんに押し付け、呪物を海から遠ざけようと考えたのでしょう」
「呪物が気になって話が入ってこない」
「存在するだけで危険なので、さぞかし手を焼いたことでしょう」
「海の中なのに」
「乙姫さんにとって、ぶっちゃけ開けようが開けまいがどっちでもいいんです」
「どっちでもいいんですね」
「乙姫さんに対する呪いのはずが、どこぞの馬の骨かわからない男が開けたせいで、鶴にするとか老人にするとか意味わからない効果として出てきたのでしょう」
「その辺は雑ですね」
「乙姫さんが開けることで真の効果が発揮されるものですから」
「とばっちり浦島さんじゃないですか」
「ごちそうにつられるからですよ」
「勇者さんにだけは言われたくないと思います」
「失礼ですね。見ず知らずのひとについていくほど世間知らずじゃありません」
「見知ったひとならついていくんですか?」
「えっ、知っているひともだめなんですか?」
「危機感は等しく持つべきだと思いますよ」
「えぇー……、危機感っていわれても」
「いいですか? たとえ相手がぼくでも、ですよ」
「じゃあ、このお昼ご飯も食べちゃだめなんですか?」
「叱られた仔犬みたいな勇者さんになっちゃった‼ めちゃかわ‼」
「魔王さん」
「すみません。お昼ご飯は食べていいです」
「心配性な魔王さんに言っておきますが、浦島さんの物語の元凶は亀を助けたことです」
「元凶」
「私は亀を助けませんし、人間に近寄らないので何も問題ありません」
「問題しかないのに安心しちゃった」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんホイホイは食べ物よりうさぎだと思います。
勇者「鶴になった浦島さんはある日、罠にかかり人間に助けられるのです」
魔王「おや、それはそれは」
勇者「そうして生まれたのが鶴の恩返しです」
魔王「違うと思います」




