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46.会話 拾い食いの話

本日もこんばんは。

潔癖症の方は読まない方がいいかもしれません。(雑草の話をクリアした方はたぶんだいじょうぶです)

「おや、こんなところに飴が落ちています。落とし物でしょうか? 落とし物ならいただいて構いませんよね」

「まずは然るべきところに届けるのが正しい行いですよ。勇者さんは勇者なんですから、余計にそうするべきです」

「ですが、もし持ち主に返ったとしても捨てられるだけですよ。落とした飴を舐めようと思いますか?」

「ご自分に特大ブーメランが豪速で突き刺さってません?」

「勇者たるもの、すべての食べ物に感謝し、よほどのことでない限り食べる所存でございます」

「キメ顔しないでください。いくら包装紙がついているからとはいえ、誰のものかもわからない飴玉を拾って食べるのはご法度です。世の中には危険がいっぱいなんですから」

「神様からの贈り物かもしれませんよ?」

「神様からもらった飴、舐めたいですか?」

「この身が滅んでもお断りします」

「それならはやく捨ててください」

「道端に捨てたら環境破壊になりませんかね」

「ぐっ、めずらしく正論をおっしゃる」

「なぜ悔しそうな顔をするんです。殴りましょうか?」

「殴るって言っているのに足蹴りするのはやめてください。せめて発言と行動を一致させてくださいよ」

「失礼しました。では、右ストレート、いきます」

「こわっ……、勢いがこわっ……。あれ? 勇者さん、足元見てください」

「これは……。パンくずですね。しかもクロワッサンですよ」

「種類はなんでもいいんですけど、どうしてこんなところにパンくずが……」

「おやおや? 山道を逸れた道の方に続いていますよ。行ってみましょうか」

「行くんですか? きっとこどものいたずらですよ」

「いいですか、魔王さん。このパンくずは均等に千切られ、均等に配置されています。そして、使われているパンはすべてクロワッサンです」

「それがなにか?」

「クロワッサンって意外と高いんですよ。あんなに軽いくせに」

「突然のディスり」

「それはともかく、この先にいる人は案外割高なクロワッサンを贅沢にも千切って道に捨てながら歩いているということです。追いついて説教して哀れなクロワッサンを救出しなくてはなりません。なぜなら、私は勇者だから!」

「飛躍。って、勇者さん! あんまり進むと迷いますよ」

「だいじょうぶですよ。元来た道がわかるように兄妹もパンくずをこぼしていったではありませんか。彼らの作戦を今に生かすんですよ」

「ヘンゼルさんとグレーテルさんですね。ん? でも待ってください。たしかあれって――」

「魔王さん、向こうで気配がします。人間がいるようです」

「ひとりのようですね。一体なにをしているのでしょう」

「あっ、あの人が持っているバスケットの中、茶色の山ですよ」

「あれだけのクロワッサンを買うとなると、お高いランチどころでは済みませんね」

「哀れなクロワッサンたち……。待っていてください。今すぐこの勇者、あなた方を救って差し上げましょう」

「ま、待った待った。ステイですよ、勇者さん。あの人、クロワッサンを千切ってそこらじゅうにばらまいています。怪しすぎます危険です」

「環境破壊真っ只中じゃないですか。現行犯ですよ」

「パンはいずれ地に還ります。危ない人には近寄らず、ここは退散――」

「おいそこの人間」

「あー! もう、勇者さんったらぁ」

「何をしているんですかもったいないおいしいクロワッサンを地面に食べさせるとはどういう了見ですかそれは人間が食べるものですそれともなんですか環境破壊に見せかけて大地に栄養をあげているひねくれた環境保護活動ですかでもやめたほうがいいですよいや今すぐやめてクロワッサンを私に寄越しやがれください」

「食べ物のことになると生き生きするのなんですか。息継ぎは?」

「すぅぅぅ……、今しました。肺活量の敗北です」

「命を削ってクロワッサンを助けてなくていいですから。って、あれ? クロワッサンエサやり人間はどこです?」

「私を見て一目散に逃げたところです。まあ、ここはクロワッサンに免じて見逃してやりましょう」

「ずいぶん大きな拾い食いですね……。って、だめですよ勇者さん。そのクロワッサンだって何が入っているかわかりませ――」

「ぱくっ。うーん、美味です。さくさく感は生きていますね。助けてよかった」

「もうーー、言ったそばから! ぺっしてください!」

「いやです。魔王さんもおひとつどうぞ」

「いりませんよ、環境破壊者の持っていた食べ物なんて」

「それなら私が全部食べますね。お残しは環境破壊に繋がりますから。そうだ、これも食べちゃお」

「はあ……。ぼくは千切って捨てられていたパンくずを回収してきます。……ん? パンくずが見当たらない……?」

「勇者たるもの、環境破壊は防がなくてはいけません」

「えっと、あの、勇者さん、まさか……」

「平気ですよ。多少土がついているくらい」

「そういう問題じゃなあああああいっ‼ もう、きみって人はーーー‼」

「魔王さんが食べるわけでもないですし、そこまで怒らなくても」

「変な人が持っていたパンを食べるなと言っているんです」

「変な人の代名詞みたいな魔王さんに言われても」

「魔王にだって常識くらいはありますよう。はあ……、食べちゃったものは仕方ありません。吐いてください」

「当然のように言うのやめてもらっていいですか」

「あんな得体の知れない人が持っていたパンが……、挙句に触って千切ったパンが勇者さんの細胞となり血肉になることに耐えられません。今すぐ吐いてください」

「ええ……。過激派……」

「ほんとうに困った人ですねっ! さっきの飴玉もそうですよ。勇者さんが持っているとろくなことになりません。ぼくに渡してください。責任を持って廃棄しますから」

「どうぞ」

「どうぞって、包装紙だけじゃないですか。中身はどこです?」

「ここです」

「ここって――。口の中? だ、だめですだめです吐いてくださいぺっしてください!」

「ごっくん」

「ああああああああ⁉」

お読みいただきありがとうございました。

良い子は真似しないようお願いします。


魔王「ぼくに精神的大ダメージが……。うう……」

勇者「大変そうですね。クロワッサン食べます?」

魔王「もー! 捨ててください!」

勇者「クロワッサンが泣いちゃいますよ」

魔王「クロワッサンに負けないくらいぼくが泣きますが」

勇者「それはうざいな」

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