459.会話 いちごの食べ方の話
本日もこんばんは。
またいちごの話をしている気がします。
「勇者さんは、いちごは先端部から食べる派ですか? それともヘタ側?」
「なんですか急に。どちらでもいいでしょう」
「ぼくにとって、きみに関することにどうでもいいことなどありません」
「そういえば過激派だった」
「以前、いちご狩りに行った時に確認するのを忘れてしまったので」
「どうでしたっけね。……一口で食べた気がする」
「丸ごと派でしたか。口いっぱいにいちごを頬張る勇者さん……、いい……」
「何の話ですか?」
「いちごはヘタから先端部にかけて甘くなっています。勇者さんが先に甘い方を食べるか、少し酸っぱい方を食べるかは全人類が気になっていることですよ」
「主語が大きい」
「ぼくはついつい、甘い方から食べてしまいます」
「それだと、残っているのは酸っぱいところでしょう。なぜさらに酸っぱくなる行動を取るのでしょうか。先に酸い、次に甘いなら、甘さも際立つはずです」
「となると、勇者さんはぼくと逆なのですね」
「せっかく食べるなら、一番おいしいと思う食べ方をしたいだけです。魔王さんの食べ方を否定するつもりはありませんよ」
「わかっていますよ。ぼくはいちごを食べる勇者さんが見たいだけです」
「それもどうかと思いますけど」
「人によっては、一番酸っぱいヘタ部分を食べ残すこともあるそうですよ」
「えっ。……それは、どうかと思います……けど」
「甘いところだけ食べて捨ててしまうんですって」
「………………」
「すっごく複雑そうなお顔していらっしゃる」
「……もったいないと、思います」
「そうですねぇ」
「…………むぅ」
「はぁ~~~~~う~~~かわいい~~~~~~‼」
「うるさいです」
「すみません、あまりのかわいさに本音が駄々洩れました」
「いつものことだと思います」
「んもう~~~~! 食べ物に関しては態度を繕えないんですからぁ~~~」
「やかましいな」
「そんな勇者さんに、今日はいちご大福をご用意しました~~」
「食べていいんですか?」
「もちろんです。どうぞ」
「おいしい。あ、いちごがそのまま入っているのですね」
「あんこも入っているので、酸っぱいヘタ部分も問題なしです」
「さすがに一口では無理でした」
「そうですね。お餅なので一口でいこうとした時にヒヤッとしましたよ」
「んもももももも」
「落ち着いてください」
「ヘタ部分決別派はいちご大福でも食べ残すのでしょうか?」
「ヘタ部分決別派」
「まさか、一度割ってから取り出し、決別してから元に戻すなんていいませんよね」
「さすがにそこまではしないと思いますけど」
「世の中には様々なひとがいます」
「いやぁ、でもいちご大福までは……」
「いると思いますよ」
「なにゆえ断言できるのですか?」
「だって、勇者のことが好きな魔王がいるくらいですから」
「まさかそんなはずありませんよぉ」
「鏡見ろ」
「真っ白な頬がいちごのように赤く可憐に染まっているこの美少女は一体……!」
「鏡割ろうかな」
「勇者さんったらぼくがいちごと並んでも後れを取らない美少女だと言いたいのですね」
「一言も言っていない」
「勇者さんも超美少女ですよっ! 自信持ってくださいな」
「いちご大福を喉に詰まらせて黙ってほしい」
「美少女といちごって似合いますもんねぇ!」
「私、さっきからヘタ部分だけ食べている気分です」
「おや、なぜです? 甘いところを食べてくださいな」
「魔王さんがいるので無理です」
「つまり、ぼくが甘いいちごのようなものってことですね?」
「ヘタ部分の残すことと同じくらい理解ができない」
「酸っぱいいちごも食べるきみに、このぼくのすべてを受け入れてほしいです」
「ちょっと厳しいですね」
「では、いちご大福になります」
「その時は、ヘタ部分は残しますね」
「そんな勇者さんそんな」
お読みいただきありがとうございました。
我が家のうさぎさんには一番甘い先端部分を献上しているのですが、たまに『酸っぱい』という顔をされます。遺憾です。
勇者「どう足掻いてもおいしいいちごってすごいですね」
魔王「あんこと一緒でも存在感がありますもんねぇ」
勇者「私より主人公っぽい」
魔王「いちごに負けちゃった」