457.会話 菜の花の話
本日もこんばんは。
一緒に花粉を撲滅しましょう。
「ご覧ください、この一面すばらしい黄――!」
「黄色いですね」
「この花は、菜のは――」
「菜の花ですよね。本で見たことがあります」
「実はこれ、食用にもな――」
「おひたしにするとおいしいと聞きました。食べてみたいです」
「さすが勇者さん。もうぼくは必要ないのですね……。ぐすん、これが親離れですか」
「なに泣いてんですか?」
「いやですぼくを必要としてください! 泣いちゃいます!」
「すでに泣いているじゃないですか」
「もっと泣きます!」
「駄々っ子か」
「お好みで地団駄も踏みますよ」
「そんなオプションみたいに」
「妥協はしません。全力でやります」
「やめてください。お花見にきた家族連れにドン引きされますよ」
「菜の花の精でワンチャン」
「無理です」
「ぼくの神々しさで目くらまししましょう」
「光魔法で攻撃しているだけでは?」
「そういう時もあります」
「あっちゃだめですよね」
「す、少しですよ。ほんの少し」
「魔王さんが光ると、色的に菜の花に紛れそうですね」
「菜の花畑に君臨した聖女という路線でどうでしょう」
「聖女じゃないでしょうに」
「人間たちへのとびっきりのファンサですよ」
「私としてはとびっきりのおひたしの方がいいです」
「聞いたことない表現やめてください」
「これだけあれば、一体何品の菜の花料理が作れるのでしょうか」
「この量を前に食べる気でいる勇者さんがこわいです」
「売店はどこですか?」
「売っていませんよ」
「そんな。では、何のためにここに来たのですか」
「菜の花のお花見ですよ」
「見るだけでは、お腹はふくれません」
「おだんごならあります」
「むしゃむしゃ」
「こうして暖かくなってくると、穏やかな人々の姿が見られるのでいいですねぇ」
「私はいつまででも部屋の中でぐーたらしたいです」
「木陰でお昼寝するのもお好きでしょう?」
「それはまあ」
「雪が解け、花が咲き、また新たな命が芽吹く。すばらしいことです」
「おだんごの話ですか?」
「解釈は人それぞれですが、今回はさすがに否定してもいいですかね?」
「三色だんごのことかなって」
「あまりに色がどんぴしゃですね。これはぼくが悪いです」
「三色だんごって、案外意味が深い食べ物なんですね」
「勇者さんは何も考えずに菜の花畑を眺めていてください」
「菜の花って独特な香りがしませんか?」
「何も考えていないというより、思考があっちこっちに飛んでいるのでしょうね」
「あ、ちょうちょ」
「菜の花に止まってかわいいですねぇ」
「受粉というやつでしょうか。なるほど、これが新たな命の芽吹き」
「すみません、ぼくはそこまで考えてしゃべっていません」
「人間、季節、おだんご、花。あらゆるものは移り変わるということですね」
「ぼくが悪かったです。おだんごあげるので静かにしていてください」
「むしゃむしゃ」
「とはいえ、厳しい冬を越したあとの春はほっとしますねぇ」
「むしゃむしゃむしゃ――くしゅん」
「風邪ですか⁉ いけません、もうお宿にいきましょう」
「いえ、寒いわけでは――くしゅんくしゅん」
「あ、もしかして勇者さん、花粉――」
「違います」
「ですが、春の風物詩と化したアレの気配がします。やはり花粉しょ――」
「違います」
「…………」
「…………。くしゅ」
「勇者さん」
「違います」
お読みいただきありがとうございました。
花粉を滅ぼす方法を考えたのですが、焼け野原にするしか思いつきませんでした。
勇者「鼻がむずむずす――しません」
魔王「無理がありますよ」
勇者「これだから人間は」
魔王「人間嫌い要素が増えちゃいましたね」