456.会話 丈の話
本日もこんばんは。
おふたりの服のお話です。
「前から思っていたんですけど、勇者さんの服のスカート……」
「なんですか。あまりじろじろ見ないでください。通報しますよ」
「丈が短くないですか? お母さん、心配です」
「勝手に親にならないでください」
「魔王、心配です」
「平気です。寒くないので」
「そういう問題ではないのですよ」
「問題があるなら神様の方だと思います」
「ほんっとにそうです。なんですかあのやろう。まじで気に食わない」
「落ち着け落ち着け」
「勇者さんとぼくとの間に神様の入る場所なんてない」
「いつもの過激派ですけど、相手が神様なので私は何も言いません」
「許せません。許せません!」
「ちなみに、前から思っていたっていつからですか?」
「出会った時からですかね」
「毎度のことながら最初期なんですよねぇ」
「もうちょっと長くしませんか? それか、別の服にしましょう。丈が長めのやつ!」
「服はかさむので旅人にはちょっと」
「ぼくのポシェットに入れますから」
「すでに何着も入っていますよね?」
「勇者さんの意思で着る服は別枠です」
「丈が長ければいいんですよね?」
「そういう問題でもなくてですね……」
「じゃあ、なんだというのですか」
「そもそも、神様チョイスの服という時点でぼくはガマンできません」
「めんどくさい」
「一切の躊躇いなく言い放ちましたね」
「だってめんどくさいから」
「勇者さんの語彙力が」
「私チョイスの丈長めならいいのですね。バスタオルでも被ればいいのですよ」
「バスタオル一枚は逆にだめですよ!」
「なんで」
「その理由がわからない勇者さんもかわいいのですが、心配が勝って息が苦しいです」
「風邪でもひきました?」
「バスタオル一枚で過ごしたら風邪まっしぐらなのは勇者さんですからね」
「仕方ないですねぇ。布面積を大きくしましょう。ベッドシーツを被ります」
「どうして服を着るという考えに至らないのですか?」
「服だって元は布じゃないですか」
「それはそうですけど」
「切るのも縫うのもめんどうです。一枚そのまま被れば楽ですよ」
「服を作るのは勇者さんではありません」
「作る人のことを考えた優しさです。勇者として当然のことですよ」
「ベッドシーツを被ったまま言われましても」
「出口がわからない……」
「すぐ妖怪になるんですから」
「魔王さんのアホ毛はここかなぁ」
「おお、正解ですよ。引き抜く勢いで掴まないでくださいな」
「目はここかなぁ」
「正解です。当然のように目潰ししようとしましたね。その流れでハグしましょう!」
「魔王さんの位置が全然わかりません」
「どうして……」
「魔王さんどこかなぁ」
「ここ……、ここだよ……」
「だめだ、わかんないや」
「そんな」
「疲れたので寝ますね」
「ベッドシーツを被っているからですよ」
「それだけではありません。洗いたてのタオルも敷き詰めました。ふかふか」
「赤ちゃんか猫ちゃんなのかな」
「おひさまのにおい……」
「どちらかというと赤ちゃんですね」
「というわけで、私は昼寝しますので」
「それはよいのですが、勇者さんのおみ足が出ていますのでしまってください」
「私にぐーたらするなとおっしゃいますか」
「ご自分の身を大切にしてくださいという意味です」
「いいじゃないですか。今も、いつもも、魔王さんくらいしかいませんし」
「そういうところですよ、勇者さん」
「魔王さんだって、ひらひらした短いスカートはいていますし、人のこと言えませんよ」
「ぼくの服はさらにかわいくさせるべく、本来よりも短い丈でお送りしております!」
「そういうところですよ、魔王さん」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんの危機感が心配でならないお母さんこと魔王さん。
勇者「身の丈にあった服を着ろ、ということですか」
魔王「そうです。長すぎても危ない――って、なぜ脱ぐのです⁉」
勇者「私に、身の丈にあうものなどありません」
魔王「そういう意味ではない」