455.会話 ぎっくり腰の話
本日もこんばんは。
魔王さんに悲劇が。
「ヴッッッ⁉」
「どうしました?」
「こ、腰が…………!」
「腰が?」
「砕け散って粉々になって星の砂も顔負けのミニミニサイズ魔王になった気がします」
「勝手にどうぞ」
「ちょっとは心配してくださいよう」
「相変わらずよくわからないことを言っているなと」
「勇者さんにだけは言われたくないです」
「私がいつ支離滅裂な発言をしたというのですか」
「ほぼいつもかと」
「まあそれはそう」
「認めちゃった」
「ご安心ください。魔王さんも負けていませんよ」
「うれしくないです」
「褒めたのに」
「勇者さんの褒めは褒めではないというか」
「文句でもあるんですか」
「文句はないです。かわいいですね、とだけ」
「やかましいです。もう一撃喰らわせましょうか」
「まさしくその通り」
「え、なに……。四つん這いのまま深く頷いた……」
「ドン引きしないでください。これは『魔女の一撃』と呼ばれるおそろしい技なのです」
「ここに魔女なんていませんけど」
「そういう名称というだけです。他の名前でいえば、『ぎっくり腰』です」
「途端に弱そうな印象が」
「ところがどっこい」
「だから、四つん這いのまま得意げに説明しないでください」
「これが強力なんだなぁ! すっごく!」
「こわいんですけど」
「あまりの痛みに動けなくてですね」
「生まれたての小鹿の方がまだ元気ですよ」
「新たな生命と比較されても困りますよう」
「どちらかといえば終わりに向かっている生命ですもんね」
「誰がおばあちゃんですか」
「労わらなくては」
「よしよしなでなでしてくれるってことですか?」
「痛みには痛みを。上書きすることでぎっくり腰のダメージをゼロにします」
「ダメージ量のゼロが増える、の間違いではなく?」
「任せてください。得意です」
「やめてください。物騒です」
「そもそも、魔王さんは魔王です。重い荷物ごときに負けないでくださいよ」
「長らく人間に合わせて生きていると一時だけ魔王というのも難しいのです」
「一時だけ魔王というのがまずおかしいんですけどね」
「腰だけ魔王にするのも操作が難しくて」
「腰だけ魔王」
「というか、魔王が何だったのか記憶も曖昧で」
「認知症ですかおばあちゃん」
「はて、今日の分の勇者さんの写真は撮りましたっけ?」
「聞き捨てならないセリフですね」
「一日一枚……以上、勇者さんの写真を撮るのがぼくの使命です」
「そんな使命は棄ててください。それと、小声で『以上』と言ったの聞こえていますよ」
「一枚だけなんてそんな悲しいこと言わないでくださいよう」
「私は一枚すら許していないんですよ」
「勇者さんはぼくより魔王になるのがお得意のようですね」
「魔王さんの態度によっては一時でも常時でも魔王になりましょう」
「その間、ぼくは何になっていればよろしいですか?」
「勇者の席が不在になりますので、勇者で」
「わかりました。勇者ですね。おかしいですね?」
「なにがですか。いつも通りでしょう」
「そうでした。そうですよ、いつも通りがおかしいのです」
「私からすれば、震える四つん這いのあなたの方がおかしいですよ」
「勇者さんとのおしゃべりぱぅわぁーで回復するかと思ったのですが」
「がんばって腰だけ魔王になってください」
「それができたら苦労しないんですよう」
「情けない魔王ですね。よいしょっと」
「勇者さん? これは別に椅子というわけではないのですよ? 確かに座りやすそうな形ですけど、一瞬、ご褒美かと思いましたけど、違いますからね?」
「ぷるぷる震える椅子は初めてです」
「勇者さーーーーん⁉」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんが魔王であることが信じられなくなっていく勇者さん。
魔王「全然治る気配がしませんが……」
勇者「私が座っているからでしょうか」
魔王「勇者さんの重みを感じて幸せです」
勇者「何発殴ろうかな」