453.会話 ハーバリウムの話
本日もこんばんは。
とてもきれいなハーバリウムには癒し効果があります。ハーバリウムSSにはありません。
「失敗回数十三回。遂に完成しました、ハーバリウム!」
「おめでとうございます。何ですかこれ」
「植物標本です。ガラス瓶の中にお花を入れ、専用のオイルで保存することで長い間、お花を楽しむことができるのですよ。アレンジによって様々なハーバリウムが作れます」
「青い花……」
「きれいでしょう? よろしければどうぞ」
「えっ」
「驚かずとも、ぼくはきみに渡すために作っていたのですよ」
「十三回も失敗して?」
「いやぁ、専用オイルを注ぐのが難しくてひっくり返しましたねぇ」
「不器用なのに、こんな繊細なものを作ろうとするなんて」
「お店で見て、きれいだなぁと思い、気がついたら材料を買っていました」
「行動力抜群ですね」
「売り物とは比べ物にならないへたっぴですけど、売り物を知らない勇者さんなら騙せ――疑うこともなく受け取ってもらえると思った次第です」
「騙せるって聞こえましたけど」
「気のせいですよう」
「売り物じゃなくたって貰うのに」
「はい? すみません、片づけの音でよく聞こえず」
「なんでもありません。中に入っている花は本物なんですか?」
「そうですよ。ガラス瓶に閉じ込めた小さなお庭って感じでかわいらしいでしょう?」
「閉じられた小さな庭、ですか」
「……アッ! 待ってください変な意味はありません小さなかわいらしいお庭以外の想像は一切しなくていいです持ち運び可能な観賞用きれい物体ですそれだけですほんと!」
「なにを慌てているのですか?」
「いえあの、つい、別のワードを思い浮かべてしまったゆえ」
「杞憂ですよ」
「きみがそう言っている時点でぼくはやらかしたってことなのですよ」
「たしかに、十三回の失敗はかなりやらかしていますけど」
「いま片づけているので見ないでくださいね」
「そこそこ頻繁に大惨事」
「ぼくが何かを作ろうとすると、大体こうなります」
「でも、毎回諦めませんよね」
「ぼく、諦めは悪いのです」
「すごいことだと思います」
「そうでもありませんよ。無理だーってなったら勇者さんに頼りますから」
「ハーバリウムでしたっけ。こんなきれいなもの、私には作れませんよ」
「ぼくにできたんです。絶対できますよ」
「それは確かに」
「頷かれちゃった」
「青い花と白い花、羽根のようなものも入っているのですね。葉っぱもきれいです」
「お好きなリボンを結ぶのも良いかと」
「じゃあ、刺繍の入った青いリボンをこうして……、どうでしょうか」
「すてきですね。これでぼくと勇者さんの共同制作の達成です」
「私、リボン巻いただけですけど」
「立派な作業ですよ。ぼくならきれいに結ぶだけでも二十回は失敗します」
「悲しいほど不器用ですね」
「花を咲かせ、あっという間に枯れてしまうものの時間を止めるハーバリウムはまるで魔法のようです。こうして人間も眺めていられたらいいのに……と思ってしまいますよ」
「前半はすてきなのに、後半で一気に魔王ですね」
「ハーバリウムに人間を入れたらきれいじゃないですか?」
「やばいセリフなのに見た目が聖なるひと過ぎて頭がこんがらがります」
「縦長のガラス瓶ならぴったりです」
「私、詰められるんですか?」
「そんなことしませんよ。死んじゃうじゃないですか」
「よかった。ちゃんと思考が働いていて」
「脳内で我慢します」
「脳内では詰められているんだ……」
「ハーバリウム勇者さん、すてきです」
「なんだろう、あんまりうれしくないな」
「勇者さんも一緒にハーバリウムを作りませんか?」
「怪しい実験に加担させられる気分」
「もしよろしければ、ぼく用のハーバリウムを作っていただきたく……、てれてれ……」
「棺桶のオーダーに聞こえる」
「メインは赤いお花で、黒いお花も入れてほしいです」
「不吉すぎる」
「リボンも真っ赤なものだとうれしいです」
「血と死のハーバリウムだ」
「ぼくなら中に入っても死にませんから、遠慮なくオイルを流し込んでくださいね」
「まじで入る気じゃないですよね?」
お読みいただきありがとうございました。
どう足掻いてもロマンチックにならない。
魔王「ハーバリウムの中から勇者さんに手を振りますね」
勇者「こわぁ」
魔王「うちわも振ります」
勇者「やだぁ」