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452/707

452.会話 地図の話

本日もこんばんは。

古い地図を持って旅に出たらきっと趣があると思います。デメリットは迷子確定なことくらいです。

「んん? うーん? はて?」

「どうしました? もしや迷ったのですか」

「うーむ、ううーん、はいっ! 迷いました」

「素直でよろしい。その手に持っているものは何ですか」

「地図ですね」

「地図の通りに進んでいるのに迷うのですか」

「それなんですよねぇ。……あ、やっぱり。これ五十年前の地図ですね」

「古いですね」

「五十年だと、多少風景は変わります。道が変わっていても不思議ではありません」

「地図の意味とは」

「こういうことがあるから、あまり地図は使いたくないんですよねぇ」

「でも、そんなに頻繁にあることではないと思いますよ」

「そうですかね? ぼくは地図を見るたびに地形が変わっていましたよ」

「それは……、たぶん魔王さんだけかと」

「町なんて面影がないですし、地名も変わってどこなのかさっぱり」

「何年経ってから再訪しているんですか」

「百年なら早い方でした」

「百年」

「千年に一度、行けば上出来って感じでしたね」

「千年」

「前にもらった地図がただの紙になる現象に何度遭遇したことでしょう」

「地図ってそんなに変わるもんじゃない気が……」

「ぼくたちの旅は目的地のない自由な旅です。地図なんてぽーいっ」

「宿への案内図なんですよ」

「困りましたね」

「ていうか、これじゃあ誰も宿に辿り着けませんよ」

「選ばれし者だけが泊まれる激レア宿ということでしょうか」

「潰れているんじゃないですか?」

「思ってもないことを言ってはいけませんよ」

「思ったから言ったんです」

「ぼくも少し思いました」

「おそらく、五十年前に潰れたんですよ」

「つい最近ですね」

「結構前ですよ」

「ああ……、たった五十年で時代が移り変わる人間の儚いことよ……」

「不老不死と比べられても困ります」

「五十年なんて瞬きと同じですよう」

「人外モーブやめてください」

「だからこそ愛おしいのです。勇者さん、びっぐらぶです」

「はいはい、儚くてすみませんね」

「思ったから言っているのですよね?」

「思ってもないことを言っています」

「今日のお宿がないかもしれないことについては」

「とても悲しい」

「無表情ということは、思ってないのですね」

「泣いちゃうかもしれません」

「すごい。抑揚の一切ない話し方」

「儚いですね」

「人って思っていないことをさらりと言えるものなんですね」

「口と脳が繋がっていないんだと思います」

「ぼくもそんな気がしてきました」

「この地図のようにね」

「この地図は道が繋がってはいるんですよ、一応」

「実際は道がありませんけどね」

「行き止まりです」

「つまり、私の脳はこの辺、なんだろう、目の辺りで信号が途絶えているのです」

「口がお宿ってことですか?」

「辿り着けないので黙ります」

「ぼくが道を切り開くのでそのまましゃべっていてください」

「せっせと土をどかしはじめた」

「魔法でぶっ壊していいですか?」

「お好きにしてください」

「えいっ。よし、進みましょう」

「あれ、向こうに明かりが見えますよ」

「んんーむ? 地図を見ると、今日泊まる予定のお宿ですよ」

「まだあったようですね」

「土砂崩れか何かで道が塞がれていただけのようです」

「やれやれ、ともあれ、野宿にならなくてよかったです」

「ぼくも感動しています。地図がまともに機能したことに」

「滅多にない経験ができましたね」

お読みいただきありがとうございました。

とんでも長命のちょっとした困りごと。


魔王「ですが、古い地図は過去に思いを馳せるにはうってつけです」

勇者「魔王さんが言うレベルの古い地図って、何年前なんでしょうか」

魔王「一応、人間の感覚に合わせて考えていますよ。千五百年前くらいです」

勇者「そっか」

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