451.会話 毛刈りの話
本日もこんばんは。
そろそろ、羊も人間も毛刈りの季節ですね。
「魔王さん、羊に似た魔物がいます」
「魔の気配を感じますか?」
「……。いえ、しません」
「そうでしょうね。あれはただの羊ですから」
「そんなまさか。毛がないじゃないですか」
「毛刈りの季節ですねぇ」
「ケガリ……? ま、まさか、魔王さん」
「そうですよ。程よいあたたかさの季節に毛を刈り、夏に備えるのです」
「あんな、切ない姿が、正しいことだと……?」
「熱中症になってはいけませんからね」
「ひょろひょろ……」
「毛皮でふわふわに見えているだけですから」
「目に見える世界が正しいとは限らないということですか」
「妙に深い言い方ですね」
「物事は毛皮のように何かを被せて本質を隠しているのですね」
「羊にとって毛皮も本質のひとつですけど」
「判断を下す前に毛皮を剥ぐことが大切だと」
「人間に置き代えたら何になるのでしょう」
「服?」
「追い剝ぎはいけませんよ」
「じゃあ、化けの皮」
「全員がそうとは限りませんからね」
「少なくとも、私たちは嘘つきです」
「おっしゃる通り」
「魔王さんなんてすべてが詐欺」
「気持ちは本物ですよう」
「気持ちだけ、の間違いですよね」
「変化魔法を使っているので何も言い返せません」
「魔王さんの毛皮を刈る時が来たようですね」
「勇者さんへの愛がとめどなく溢れ出しますが、だいじょうぶですか?」
「やめます」
「やめなくていいのですよ。ぜひ、さあ、派手に、れっつ」
「待ってください。よく考えたら、溢れ出すのは血ではありませんか?」
「真面目な顔でこわいことを」
「モザイク必至の大惨事映像の予感」
「勇者さんのためにもふもふ魔王に変化しておきますよ」
「それはちょっと」
「なんで遠慮するんですか」
「毛刈りって大変そうですし」
「すぽんと取れるように設定しておきますよ」
「傍から見たら追い剝ぎと同じです」
「手をバンザイして、脱げたらクラッカーを発射」
「上手にできました~じゃないんですよ」
「褒めてくださってもいいのですよ」
「誰が褒めるか」
「魔王の毛刈りシーズンを作り、毎年ぼくの服を脱がしてくださいな」
「自分のしゃべっていることを理解していますか?」
「あんまり」
「欲望だけで生きているからそうなるんです」
「えっへへへぁ」
「刈られた羊たちには驚きましたが、魔王さんには何も思いません」
「ぼくへの感情が乏し過ぎる」
「他の動物も毛刈りをするのですか?」
「アルパカや牛なども行いますね。オシャレとして毛を整える作業もありますよ」
「人間でいうところの散髪でしょうか」
「少し似ているかもしれませんね」
「なるほど」
「ぼくの美しい白髪を見ながら頷かないでください」
「深い意味はありませんよ」
「深い意味しか感じないのです」
「魔王さんお得意の妄想じゃないんですか」
「勇者さんに見られていると思うと、どきどきしちゃいますねっ」
「ほら、そういうの」
「どこから取り出したんですか、そのハサミ」
「魔王さんの毛刈り用です」
「心臓が跳ね上がりましたよ」
「ゆっくり深呼吸をしてください」
「すーはー、すーはー、すーはー、あの、真横でハサミをチラつかせないでください」
「深い意味はありませんよ」
「深い意味しか感じないんですってば」
お読みいただきありがとうございました。
ひょろひょろ羊を見ると春だなぁと思ったり思わなかったりします。
勇者「確かに涼しそうですね」
魔王「さっぱりして気持ちよさそうです」
勇者「私で例えるなら、お布団を剥ぎ取られるって感じでしょうか。それはいやだなぁ」
魔王「断固として離さないでしょうね」