450.会話 呪文の話
本日もこんばんは。
定期的な恒例のお約束強制ファンタジー回です。
「ちちんぷいぷい~。どんがらがっしゃん~。あそれそれそれそれ~」
「正気ですか?」
「魔法の呪文らしいですよ。これでどうなるのかはわかりませんが」
「正気とは思えないかわいさ。震えが止まりません」
「喜んでるんですか? 正気でないのは魔王さんの方ですよ」
「え、ぼく死ぬ? 勇者さんのかわいさで死ぬの?」
「勝手にしてください」
「ぼくが死んだら、魔法の呪文で蘇らせてくださいね。ずっと待っていますから」
「不老不死の戯言」
「辛辣勇者さん」
「そもそも、魔族も魔法使いも呪文なんて唱えていましたっけ?」
「一言で呪文といっても、その形はさまざまです。それでは参りましょう。第七回『教えて! 勇者さん』のお時間です~。ぱちぱち~ぱちぱち~」
「ずいぶん長いシリーズになったものですね」
「まずですね、呪文を使うのは主に人間の魔法使いだけです」
「そうなんですか」
「呪文とは魔法を効果的かつ効率的に発動するための言葉です。言葉として声に出すことで、魔法のイメージを強化するのですよ」
「ふむ?」
「例えば、とある魔法使いが『光よ!』と言ったとしましょう。どんな魔法が発動すると思いますか?」
「目くらましの眩しい光を出すとか、敵に向かって光線を撃つとかですかね」
「そのように、何らかのイメージを持ちますよね? それが呪文の意義です」
「無言でも魔法は発動できますよ」
「ですので、呪文は必ずしも必要というわけではありません。しかし、唱えることで発動条件を満たすものや、効果を高めるものもあるのですよ」
「呪文はなんでもいいんですか?」
「そうですね。多くの魔法使いは自分だけのものを使っているようです。魔法の名前を呼ぶことも呪文のひとつと考えられますね」
「アナスタシアはよく魔法の名前を声に出していた気がします」
「まさしく詠唱行為ですね」
「なんだかかっこいいですね」
「もしかして、ぼくの呪文を期待していますか⁉」
「一言もそんなこと言っていませんけど」
「魔王さんの呪文も聞いてみたいって言いましたよね」
「言っていません」
「ぼくには聞こえました」
「幻聴です。耳鼻科の受診をおすすめしますよ」
「呪文は自分にとって唱えやすいものがいいです。ぼくの場合は、『見ていてください勇者さん』とか『応援してください勇者さん』となります」
「なりません。考え直してください」
「『アイラブユー勇者さん』の方がいいと?」
「勇者さんシリーズを考え直せと言っているのです」
「無理です。ぼくの呪文には必ず『勇者さん』という言葉が入ります」
「厄介だな」
「勇者さんを呼びながら魔法を発動させられると思うと、今すぐ叫びたいです」
「鎮まってほしい」
「大火のように燃え上がり、嵐のように激しく、激流のように波打つぼくの気持ち!」
「光属性ですよね?」
「闇のように深く、光のように眩しいぼくの愛!」
「付け足すな」
「全属性バージョンの呪文です」
「属性はひとつですよ」
「じゃあ、『闇のように深い』を選びます」
「そこは光を選んでください」
「ぼくの愛がいいのですね?」
「切り取るところ」
「いい機会ですし、勇者さんも魔王さんシリーズで呪文を考えませんか?」
「当然のように自分を使わせようとするな」
「えっ、使わないんですか?」
「そんな決まりはないでしょう」
「世界にひとりしかいない勇者と魔王が対になる呪文を使っていたら、なんかこう、いいぞー! って感じがするじゃないですか」
「そう思うのは魔王さんだけですよ」
「そんなことありません。大体の人はこういうのが好きなんです」
「偏見ですね」
「ひとつだけでもいいので、考えてみましょうよ」
「闇魔法その一、闇魔法その二、闇魔法その三」
「正気ですか?」
「喜んでいただけてなによりです」
お読みいただきありがとうございました。
呪文とか詠唱とか考えられる人の脳みそがほしいです。
勇者「声に出したら相手にヒントを与えるようなものではないですか?」
魔王「イメージ強化によって威力が上がるので、どっこいどっこいかと」
勇者「ヒントにならないような呪文なら完璧ですね」
魔王「やはり勇者さんシリーズってことですよ」
勇者「違う」