446.会話 宗教勧誘の話
本日もこんばんは。
あぶない話ではないので安心してお読みくださいね。
「いつまで笑っているんですか」
「だってぇ~、勇者さんが、んっふふふふえへへへっはははふふふははは~」
「独特な笑い方ですね」
「笑いが止まりませんようえっへえっへへへへへんふふふっふふふ」
「笑いすぎです」
「いやぁ、すみません。あんなにおもしろい場面を見ると思わなくてですね」
「ふざけたつもりはありませんよ」
「そこそこ真面目だからこそ、余計におもしろいのです」
「はやく帰ってほしかっただけです」
「人間苦手ですもんね。それにしても、んふふふ、宗教勧誘を撃退する勇者さん……」
「ドアを開けた瞬間に鉢合わせるなんて、タイミングの悪いことです」
「ぼくを呼ぶ前に捕まりましたね」
「なにが神様ですか。こちとら勇者ですよ」
「一応、世界ではいろんな神が信仰されています。きみの知る神様は主に聖職者に信じられている神ですね。まあ、アレが世界を創った神なんですけど」
「いろんな神様……。うさぎの神様もいるのでしょうか」
「んっっ……ふふふふふふふふ」
「なに笑ってんですか」
「いえいえ、きっといると思いますよ」
「からかわれている気がする」
「とんでもない。いろんな神様がいるから、先ほどの勇者さんの撃退が効いたのです」
「あればかりは冗談のともりで言ったんですけどね」
「お相手の方の驚いた顔といったら……。んふふふふふへっへへへへへ」
「やべえやつに話しかけちゃったって顔していましたね」
「そりゃあね、勧誘相手が『私が神ですけど?』なんて言ってきたらね」
「つい口から出てしまったんです」
「相手の人の驚きようはすごかったです。ぼくもびっくりしました」
「私もびっくりしました」
「みんなびっくりするという謎の空間でしたね」
「勧誘の人、驚きすぎて『何の神ですか?』って訊いてきましたね」
「どう見ても人間なんですけどね」
「ぼくはてっきり、『堕落とB級映画を司る神』と言うのかと思いましたよ」
「さすがにそんなこと言いません」
「なんて言ったんでしたっけ?」
「怠惰の神です」
「似たようなもんですよね」
「お供え物はおいしいものでお願いします」
「八割方、それが目当てですよね」
「馬鹿言わないでください。私にも礼節をわきまえる気持ちくらいあります」
「おや、そうでしたか」
「十割、食べ物目当てです」
「清々しい」
「怠惰を司ると明言しているのです。私に礼節を求めるのが間違いだと思いませんか」
「曇りなきまなこで間違いしか言っていない」
「勧誘してきた人も礼儀がなっていませんでしたね。話を聞いてほしいなら、それ相応の対価を渡すべきです」
「具体的には?」
「命とか」
「命」
「別にいりませんけど」
「いらないんですね」
「あって困るものですし」
「その表現を否定以外で使う人っているんですね」
「自分の命すら不要なのに、他人の命までもらっても困りますよ」
「勇者……」
「どうせなら、魔王さんを勧誘するべきでしたね」
「ぼく、魔王ですよ? 人間の宗教に手出しはしません」
「相手が勇者を信仰していたら?」
「ぜひ詳しくお話を」
「ちょろい。魔王を信仰する人間っているのでしょうか」
「世界は広いですからね。可能性はあります」
「一瞬で興味なさそうな顔になりましたね」
「ぼくを信仰されても困ります」
「愛する人間たちから『魔王様! 魔王様!』って群がられますよ」
「それは……かなり良いですね」
「揺らぐな揺らぐな」
「では、ぼくも『勇者さん! 勇者さん!』と詰め寄ろうと思います」
「貢ぎ物を持ってくるがいいです」
「夕飯作ってきますね」
お読みいただきありがとうございました。
人間の世界では勇者信仰が篤いです。
勇者「勇者と言えば勝手に貢ぎ物が出てくるようになればいいのに」
魔王「本来ならそういうこともあるのでしょうけど」
勇者「私は一度もないです」
魔王「ぼくはあります」
勇者「やかましいわ」