444.会話 ジグソーパズルの話
本日もこんばんは。
3月3日はジグソーパズルの日なんだそうです。へえーと思ったそこのあなた。私も思いました。
「この大惨事はなんですか?」
「ジグソーパズルをやろうと思いまして」
「変な形……。色がついているのですね。これをどうするんですか」
「きれいに収まるセットがあるので、ひとつひとつ組み合わせていくのですよ」
「へえ。これだけあると少し時間がかかりそうですね。不器用で有名な魔王さんが完成させられるのか気になるところですが」
「もちろん、ぼくは不器用ですので自力で完成させる自信はありません」
「自信がないことを自信満々に言われても」
「ですので、勇者さんのお力を借りたく」
「私、ジグソーパズルとやらは初めて触りますよ」
「きれいに切れているものは一番端です。似たような色は同じ場所だと考えられます」
「なるほど?」
「なんでも器用にこなすきみの力がないと完成形が見られないんです!」
「そんなに難しいんですか」
「基本的には完成形の絵があるのですが、今回はありません」
「なにゆえ?」
「ぼくが失くしたからです。まじですみません」
「素直でよろしい。でも、何もわからずにやるのは大変です。せめてどういう絵だったか教えてください。こちらでなんとなく想像しますから」
「それはやっぱり、完成してからのお楽しみってことで」
「殴りましょうか?」
「知ったら楽しさ半減ですよう」
「知らないと難易度倍増なんですよ」
「勇者さんならできます」
「謎の信頼やめろ」
「それでは参りましょう。千ピースジグソーパズル、すたーとぉ~」
「わかりやすいのは端っこのピースですね。まずは枠組みを完成させます」
「あっさり枠組みができましたね。さすが勇者さんです」
「黒色が多いですね。一か所に集めてはめていきます」
「一気に大きなまとまりができますね」
「はまったと思っても微妙に違うものもあるのですか。似たような形なのに意外と違うものなのですね。確かに、重ねるとわずかに形が異なります」
「愛おしいです」
「ピースにまで愛情を抱くんですか? 特殊なひとですね」
「いえあの、まるで人間のようだと思いまして」
「一言足りないだけで、一気にアブナイひとになるんですね」
「そういうきみは、文句を言うわりにはしっかりパズルに取り組んでくれるいい子です」
「一言余計ですよ」
「勇者さんはいい子ですね」
「気が散るので黙っていてください」
「ぼくじゃなかったら泣いているところですよ」
「私の視界には、目から滝のように水を流す魔王さんが映っていますが」
「ぼくでも泣く辛辣具合ということです」
「そうですか。泣く暇があったらちょっとは手伝ってください」
「ぼくは手を出さないことが手伝いになるかと思いまして」
「確かにそうですね」
「ですよね。ぐすん」
「そもそも、なんでジグソーパズルをやろうと思ったんですか?」
「ジグソーパズルをやろうと思ったからです」
「そうでしょうね。まあ、そうでしょうね」
「勇者さんにはいろんなものに触れてほしいのです」
「物理的に触っていますね」
「一ピースだけではわからずとも、二つ、三つと合わさっていけば絵を描く。すてきなことだと思いませんか?」
「まだなんとも言えませんが、ぴったりはまるのは気分がいいです」
「少しずつ完成するのもいいですよね」
「地道ですが、進んでいるのが目に見えてわかるので、やってもいいかなと」
「特段迷いなく進んでいるように見えるのですが、それは」
「大体わかってきました」
「さすが……」
「ぱちり、ぱちり、ぱちり、ぱちり」
「ジグソーパズルって迷わずはめるものでしたっけ」
「そろそろ完成ですが、魔王さんにひとつお訊きしたいことがあります」
「なんでしょうか?」
「これ、私のように見えるのですが」
「いまの時代、自分の好きな絵や写真でジグソーパズルが作れるんですよ~」
「ですよ~じゃありません。私は私のジグソーパズルを作っていたんですか」
「まさしくその通りです。完成したら魔王城に飾らせていただきますねっ」
「すたこらさっさー」
「最後の一ピースを持ってとんずらしないでください!」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんならミルクパズル(絵柄のない真っ白なパズル)も完成できると思います。
魔王「返してください最後の一ピース!」
勇者「色的に目の部分でしょうか」
魔王「大事なとこ!」
勇者「いやです」