440.会話 雑誌の話
本日もこんばんは。
また何か拾った勇者さんです。
「文字や写真や絵が載った本の束がゴミ置き場にあったので持ってきました」
「戻してきなさい」
「よく燃えそうなので、今日の焚き火に使おうかと思います」
「今しがた、木の枝を拾ってきたばかりでしょう」
「えー、ちゃんと面倒みますから」
「ペットじゃないんですよ。これは雑誌ですからね。生きていません」
「こんなにペラペラの体でも必死に存在しているというのに」
「雑誌の紙質なんてチラシみたいなもんですよ」
「情報量が多い文字の配列に脳が疲れます」
「小説に慣れると大変かもしれませんね」
「あんまりおもしろいものではない――あ」
「どうしました?」
「見てください。うさぎさんの写真です。次のページもうさぎさんです」
「うさぎの飼い方や生態などを解説するうさぎ雑誌のようですね」
「これ全部うさぎ特集なんですか? 世の中には物好きがいるもんですね」
「そう言いながら、めちゃくちゃうれしそうに読んでいらっしゃる」
「何か言いました?」
「いえいえ、お気になさらず」
「見るだけならタダですから」
「ゴミ置き場から持ってきているので、驚きのタダですよ」
「他にも動物特集の雑誌はあるのでしょうか。……お、ありますね」
「ワンちゃんは定番。ねこちゃんも人気ですよね」
「魔物特集」
「誰が読むんですか?」
「魔物の形に合わせて使う武器の扱い方や罠の張り方、最寄りの教会への連絡方法まで載っています。いざという時の身の守り方は便利そうですね」
「全然楽しくない……」
「カメラマンが命懸けで撮った魔物の写真とともに、気をつけることや倒し方の見本が」
「倒し方がわかったとして、実際に倒せるかどうかは別問題なんですけどね」
「かなり間近で撮られているようですね。人間にしては頑張っているじゃないですか」
「ぼくたちは見慣れていますけどねぇ」
「写真の下に、カメラマンの名前が書かれていますね。それと、簡単な説明文も」
「なんて書いてあるのですか?」
「『これは、彼が命を懸けて撮った最後の写真である』」
「重いよぉ……。雑誌はもっと気軽に簡単に読むやつですよぉ……」
「この名前、さっきも見ましたね。ほら、うさぎの写真を撮った人と同じです」
「うさぎさんだけ撮っていてくださいよぉ……」
「巻末にロングインタビューが載っています。なになに……、娘が愛したうさぎの写真を撮り続けた彼は、魔物に妻子を殺され、二度と悲劇が起きないよう、人々に魔物の恐ろしさと対策を知らせるために被写体を変えたそうです」
「話が重いよぉ……」
「この人、魔物を撮り始める前はこども向けの被写体が多いみたいですね」
「ぼくは胸が苦しくなってきましたよ」
「うさぎをメインとした動物、ぬいぐるみをメインとしたおもちゃ、こども向けの服の特集経験もあるようです。こども好きなんですね」
「おのれ魔物……」
「それ私のセリフですよ」
「こんなにかわいい動物やおもちゃを撮っていたのに、最後は魔物だなんて……」
「ぬいぐるみ特集、すてきです。あ、うさぎのぬいぐるみもある」
「きれいに撮れているので、写真を見ているだけでも楽しめますね」
「ふうん、雑誌もなかなかいいじゃないですか」
「お気に召したようですね」
「魔王さん用に人間特集があるとよいのですが」
「被写体を人間とするカメラマンは多いですよ」
「いえ、飼い方や生態を解説したやつです」
「魔族専用雑誌ですか?」
「警戒心を和らげるために、まずはおいしいご飯を用意しましょう」
「そんな見え透いた行動をするわけ――あ、したわ。ぼく、ご飯用意してました」
「食べる方も食べる方ですけどね」
「ご自分に特大ブーメラン」
「私も魔王さんの写真を撮って『魔王特集』をやりましょうか」
「ただの美少女特集ですねっ」
「完成したら誰にも見せずにビリビリに破いて焚き火にくべます」
「そんな」
「これで彼も報われるでしょう」
「供養の仕方が独特すぎませんか」
「普通の供養の仕方なんて知りません」
「そうですね。気持ちの問題ですから、これも悪くないでしょう」
「そうと決まれば、まずは魔王さんの写真を撮るところから始めません」
「始めないんだ」
お読みいただきありがとうございました。
うさぎ雑誌はしばらく勇者さんが眺めていたようです。
魔王「このぬいぐるみ、ミソラさんに似ていますよ」
勇者「ほんとだ。かわいいですね」
魔王「こういう時は素直なんだけどなぁ……」
勇者「なんで遠い目をしているんですか?」