44.会話 絵の話
本日もこんばんは。
お絵描きの時間です。
「絵の具、クレヨン、色鉛筆。用意は完璧ですよ、勇者さん!」
「なにをするおつもりですか。……どうやって使うんだろう、これ」
「ああっ、だめですよ。パレットに出さないと。これらは絵を描く道具です。似顔絵を描こうと思って買ってきたんです」
「似顔絵ですか。なぜです」
「絵とは、写真とは違った楽しみ方ができるんです。その人の絵の特徴や、描き方で無限大の可能性を秘めているんですよ。勇者さんは絵を描いたご経験は?」
「ありません。へえ、いろんな色があるんですね。青だけでこんなに……」
「興味湧きました? さっそく似顔絵を描いてみましょう~」
「描いたことないのに……。まあ、いいでしょう」
「勇者さん、こっち見てください。似顔絵を描くんですから。お顔を見せてくれないと」
「同時にやるべきことじゃないですよね。効率悪いですよ」
「でも、楽しいでしょう?」
「未知すぎてよくわかりません。うわ、青と赤を混ぜたら紫になりました」
「面白いでしょう? ですが、気をつけてくださいね。たくさんの色を混ぜすぎると黒になりますから」
「魔王さんには必要ない色ですね。魔王なのに」
「まあ、混ぜなくても原色があるんですけどね」
「ちょっと、特定の色を独り占めするのやめてくださいよ」
「だって、ぼくしか使わないじゃないですか」
「だからって独占しなくても。しかも赤と黒ばっかり」
「好きな色なんですう~」
「…………」
「勇者さんも青ばっかり手元に置いているじゃないですか。一色じゃなくて、青系統全部! 独占禁止法を作りますよ」
「はいはい。進捗はどうです?」
「順調ですよ。我ながら最高の出来です」
「私も完成間近です。あと少しで描き終わりますよ」
「…………」
「…………」
「できました! 完成です~」
「私もです。では、見せ合いましょう。そぉれ」
「よいしょー。……おお? お、おおう……? おうおおう……?」
「理解できる言葉にしてもらっていいですか」
「なんというか、画伯ですね」
「褒めてます?」
「褒めてます! 不思議な画風なのにぼくの特徴が出ています。初めて描いてこれとは、勇者さんは絵の才能があるかもしれませんよ」
「そういう魔王さんは……。私は絵の知識などないので個人的な感想になりますが」
「どうでしょう! 自信作ですよ」
「いやあ、ばけものを描いたのかと」
「勇者さんを描きましたよ⁉」
「さすが魔王さんです。ただの絵の具からここまで禍々しいばけものを生み出せるとは」
「だから、勇者さんですって! よく見てくださいよう」
「見れば見るほど悪寒がします」
「目とかそっくりでしょう?」
「目が合ったら殺されそうです」
「黒髪のツヤとか」
「ひとりでに動き出してません? 石化するタイプの髪の毛ですか?」
「風になびいているシーンです」
「なるほど、たしかに絵は無限大の可能性を秘めていますね。そして、開けてはならないパンドラの箱を開けた気分です」
「うまく描けたと思ったんですけど……」
「よそ見ばかりしているからじゃないですか?」
「へう⁉ し、してませんよ!」
「私がキャンバスを見ている時とか、ずっと見ていましたよね。バレてますよ」
「ま、まじですか」
「あ、やっぱり見てたんですね」
「……ハッ⁉ 嵌めましたね、勇者さん」
「てなわけで、その絵は没収します。魔王さんが描いた勇者の絵など、どんな悪影響が出るかわかりません。勇者ぱぅわぁーで封印します」
「どういうわけですか。理由になってませ――ああっ、ぼくのすぺしゃる勇者さんが~」
「道具も没収です。……ん? これ、なんですか?」
「それはボディペイント用の絵の具ですよ。顔や体に塗ってもだいじょうぶなものです」
「ふうん……。魔王さん、こっち来てください」
「いやな予感しかしないのですが」
「だいじょうぶです。画伯勇者に任せてください」
「な、なにを描くか訊いても?」
「なあに、なんてことない絵ですよ。イタリアンのフルコースを少々」
「人身御供イタリアンバージョン!」
お読みいただきありがとうございました。
上手い下手でいうと勇者さんは上手い部類に入ります。魔王さんは論外です。
勇者「服の模様をペイントすれば裸でいいのでは?」
魔王「ぼくが全力で阻止しますからね」
勇者「服を消費しない環境にやさしい行いじゃないですか」
魔王「それ以前の問題が多すぎるんですよ」




