438.会話 三匹のこぶたの話
本日もこんばんは。
今回餌食になる物語はこちら。
「やられる前にやる。弱肉強食の世界では当然のことですよね」
「一応お伺いしますが、何を読んでいたのですか?」
「『三匹のこぶた』です」
「そんな物騒なお話でしたっけ」
「そもそも、藁でできた家というのもおかしな話です」
「意外にも、藁を利用した家というものもあるのですよ」
「息を吹きかけて壊れるのなら、建設途中の風で壊れるはずです」
「あ、まあ、そうですね。いやでも、これは作り話ですし、ね」
「欠陥住宅にもほどがある」
「あ、うん、そうですね」
「もしくは、オオカミの肺活量が異常」
「巨大扇風機でも使ったんですかね」
「次に、木の枝で作った家です」
「オオカミは二回、息を吹きかけて壊していましたね」
「そんなことある?」
「作り話ですから」
「息という名の重機を使ったと考えられます」
「息という名の重機」
「オオカミは私物に名前をつけるタイプでしょうね」
「なるほど。なるほど?」
「最後に、レンガで作った家です」
「オオカミは壊すことができませんでしたね」
「三回、息を吹きかけて壊さないとこぶた二匹に失礼ですよ」
「食べようとしている時点で礼儀もなにもありませんけどね」
「オオカミの家破壊チャレンジ大失敗ということで」
「途端にバラエティ番組感が」
「賞金百万円は没収です」
「バラエティ番組でした?」
「最後のチャレンジャーは私です」
「私です?」
「みなさんの声援を胸とか背中とか頭とか地面とかに捨てて成功してみせます」
「声援捨てちゃった」
「まず、こちらの爆弾に火を点け」
「ちょ、ちょっと待っ――」
「煙突から放り込みます。私の勝ちです」
「こぶたがぁぁぁぁぁぁ!」
「焼き豚ですね」
「なんておそろしいことを」
「豚肉を食べる時は火を通すべきです。生肉はお腹を壊しますよ」
「そうですけど。そうですけどね」
「では、私がこぶた側だった場合もお話しましょう」
「立場を変えることで新たな視点に気がつくこともありますからね」
「私だったら、藁で家を作ります」
「あれ? そうすると、一匹目のこぶたと同じになってしまいますよ」
「違う点があります。私は家の中にいません」
「どういう意味ですか?」
「藁の家の中にあるのは、そう、爆弾です」
「レギュラーメンバーなんですか?」
「それも、時限爆弾です」
「なんでうれしそうなんですか」
「オオカミが入った瞬間に爆破します」
「どう足掻いても爆弾が強すぎるんですよ」
「こぶただって鍋で沸かしたお湯にオオカミを落としています。似たようなものですよ」
「似て非なるものかと」
「やられる前にやる。弱肉強食の世界では当然のことですよね」
「さっきも聞いたセリフですね」
「罠というものは知能あるものの特権ですよ」
「勇者さんの場合は知能バトルというより文明の力でねじ伏せていますけどね」
「こぶたもオオカミも食用」
「たくましいんだなぁ」
「絶対に爆破します」
「滅多に出てこないやる気をここで使わないでください」
「ほんとうの弱肉強食の世界を見せてやります。お腹すきました」
「そろそろ夕飯の時間ですね。もうできているので持ってきますよ」
「食事の心配をしなくていいのも、三匹のこぶたとは異なりますね」
「食べ物がなくて家から出されちゃったところから始まりますからねぇ」
「世知辛い世の中です」
「勇者さんは、その心配はしなくていいですのでね」
「ところで、今日のメニューはなんですか?」
「豚肉の生姜焼きですよ」
お読みいただきありがとうございました。
前書きの『餌食』が実際の意味で使われるとは。
勇者「これが弱肉強食の世界」
魔王「命に感謝していただきましょう」
勇者「三匹のこぶたの本にも見せてあげよう」
魔王「やめて差し上げてください」