437.会話 リスの話
本日もこんばんは。
リスってあまり実物を見る機会がない気がします。
「勇者さん、勇者さん、あの木を見てください。リスがいますよ!」
「ほんとだ。小さいですね」
「ほっぺに食べ物をいっぱい詰め込んでかわいいです。ぷっくりほっぺですね」
「よくあんなに詰め込めますね」
「勇者さんみたいでかわいいです~」
「なっ……に言ってんですか!」
「ご飯を食べている時の勇者さんに似ています」
「私はあそこまで口いっぱいに食べ物を入れたりしませんよ」
「イメージと想像の中ではあんな感じです」
「私のことなんだと思ってるんですか」
「食事の時は小動物感が一層増しますね」
「一層ってどういう意味です。普段も小動物だと思ってるってことですよ、それ」
「間違いではないですね」
「間違いだと言ってください」
「食べている時の勇者さんを眺めることは筆舌に尽くしがたい幸せですよ」
「やめてください恥ずかしいです」
「勇者さんだって、魔物から助けたこどもの恐怖が軽減するようお菓子をあげたあと、それとなく食べている様子を眺めているではありませんか」
「私は魔物に襲われたこどもと同じなんですか?」
「隣にいるのは一応魔族ですし」
「あ、そうでした。すっかり忘れちゃう」
「恐怖のきの字もない美少女ですもんねっ」
「存在感が薄くて」
「そんな」
「悲しい顔をしながらお菓子を渡さないでください」
「お食べ」
「にこにこするな」
「ぼくは何かを食べている勇者さんが大好きなのです。もぐもぐしている勇者さんを見ているとぼくははっぴーはっぴーなのですよ」
「その言い方だと、私がずっと何かを食べているみたいじゃないですか」
「事実かと」
「そうですけど」
「大食いというわけではありませんが、何かしら食べていることが多いですよね」
「そこに食べ物があるから」
「好きなだけ食べるとよいです」
「そうは言っても、お腹にも限界がありますし、食べたいだけ食べるのも難しいです」
「そういう時こそリスの頬袋です」
「私は人間です」
「宿の朝食時、お持ち帰りオーケーのパンを袋に詰めている姿はリスそのもの」
「み、見てんじゃないですよ」
「ぼくは『リスだ~』と微笑ましく眺めていました」
「眺めるな」
「たまに、すぐ食べたいものは口に放り込んでいますよね」
「単純に食べているだけです」
「ほっぺが膨らんで戻ってきた時のぼくの気持ちをご存知ですか?」
「知りませんけど」
「あまりのかわいさに心臓は止まるわ呼吸は止まるわ脳は破裂するわ思考がショートするわ三回くらい死んだ気がするわでめちゃくちゃ大惨事だったんですよ?」
「私に言われても」
「写真に収められなかったことは生涯、後悔するでしょう」
「重いな」
「割と頻繁に出現するリーシャさんなのに、まだ一度も撮れていないんです……!」
「リーシャさん誰」
「リスの勇者さん。略してリーシャさんです」
「新しい登場人物を軽率に生まないでください」
「勇者さんコレクションに追加することが直近の夢です」
「直近ではない夢はなんですか?」
「すべての勇者さんをコレクションすることです」
「訊いた私が間違っていました」
「ふてくされながらお菓子を食べる勇者さん……、イイ……」
「やかましいですよ」
「ほっぺの半分にお菓子を詰めている勇者さん……」
「文句ありますか」
「……………………」
「なんちゃって。口に食べ物を入れたまましゃべるのはお行儀が悪いので空気ですよ」
「かっっっっわ…………! もうすべてがかわいいですやることなすことしゃべること存在がもう罪深いくらいかわいくてぼくは頭がおかしくなりそういっそおかしくなりたい」
「やかましいのでお菓子でも食べていてください」
「むしゃむしゃもぐもぐむげむげもがもがめしゃめしゃもそもそむもむも!」
「なんでこんなうるさい?」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんの脳を破壊するリーシャさん。
勇者「魔王さんもその口の中にえげつない量の言葉が入っているのでしょう」
魔王「いくらでも入りますし、出てきます」
勇者「おかげでうるさいのなんの」
魔王「えっへん」
勇者「褒めてない」