435.会話 お手玉の話
本日もこんばんは。
相変わらず勇者さんは器用です。
「魔王さん、私は新たな技を獲得しました」
「おめでとうございます。まさかそのスライムたちを使ったりしませんよね?」
「使います。こうです」
「器用……。お手玉ですか」
「本に書いてあった技です。スライムがない場合は爆弾でも可だそうですよ」
「可じゃないんですよ。だめです」
「手のひらサイズのスライム、ちょっとかわいいですね」
「小さくても魔物です。捨ててください」
「無慈悲」
「勇者さんに言われたくないです」
「黒蜜かけたらおいしそう」
「しっかり目を開けて見てください。これはスライムですよ」
「つぶらな瞳」
「勇者さんに媚びうってんじゃないですよ! 散れ!」
「魔王さんもスライムお手玉やりますか?」
「そうですね。爆弾とスライムを交互で投げようと思います」
「どきどき爆破チャレンジですか」
「タイミングを見計らってスライムだけ破裂させるチャレンジです」
「最初からスライムだけでいいのでは」
「いやです。爆弾を混ぜることでぼくの殺意を軽減させているのですから」
「こんな小さな魔物に魔王オーラを出さなくても」
「滅ぶべし」
「今日も元気そうですね」
「そわそわするのでスライムではなくこちらのお手玉で遊んでください」
「どこから出した」
「ところで勇者さん、本を読んだだけでお手玉を習得するとはさすがですね」
「順番に投げるだけですよ」
「ぼくはどうしてもうまくできなくて」
「アドバイスしますよ。一度やってみてください」
「いざ。そぉい。よいよいよい。あそーれ。痛いっ」
「投げたお手玉が全部顔に当たることがあるんですね」
「いつもこうなるんです」
「ある意味、ミラクルですね」
「ぼくの不器用が発動しているのでしょうか」
「それ以外の理由があればぜひ知りたいですよ」
「風邪かなぁ」
「うん、違う」
「胸が苦しくなってきました」
「スライムを握り潰さないでください。さらに小さくなってしまいましたよ」
「滅」
「ミニスライムたちが一斉に逃げ出した」
「逃げるなーーー!」
「魔王さんの周りを器用に逃げ回っています」
「小さくて! 捕まえにくい! ああもう! ぼくにまとわりつくな!」
「あ、お手玉ができている。きれいな円を描いていますよ」
「いやあの、ぼくは少しも触れていないのですが」
「実に美しいお手玉です」
「ぼく、なんにもしてないのに」
「まるでお手本ですね。私も参考にさせていただきます」
「どの辺を参考にするおつもりですか?」
「一定のスピード、間隔、円の形、全てが完璧です」
「ぼくの関与している部分がひとつもない」
「ぜひ記録に残しておきたいですね」
「もう、ぼくは動くのをやめましたよ」
「ミニスライムたちだけくるくる回っていますね」
「図らずも眷属を得た気分です」
「魔王さんの技ってことにしましょう」
「いやですよ周囲にスライムをまとう魔王なんて魔王すぎます」
「どの口が」
「地味に顔を掠るのもストレスです」
「当たってたんだ」
「慣れてきたスライムたちのスピードが上がったのも腹立ちます」
「珍しく死んだ目ですね」
「こいつら、ものすんごい邪魔なんです」
「おもしろいので写真撮っていいですか?」
「かわいく撮ってください」
「スライムの残像で魔王さんの顔がえらいことになりました」
「えらいことって?」
「心霊写真が撮れました」
「おのれスライム」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは散歩中にミニスライムをせっせと捕獲したそうです。
勇者「最初、野生の水まんじゅうかと思ったんですけどね」
魔王「野生の水まんじゅう」
勇者「食べたかったなぁ」
魔王「スライムも毒ですからね?」