433.会話 フードの話
本日もこんばんは。
2月10日はフードの日なのだそうです。つまり勇者さんの日ですね。
「ずっとフードを被っていると、邪魔だなぁって思ったりしませんか?」
「思いません」
「特に、風が強い時とか」
「思いません」
「先ほどからお顔にフードがバタバタ当たったり、何度も脱げるのを直したりしていますが、めんどくさいなって思いませんか?」
「思……いません」
「風向きによっては口と鼻が覆われて呼吸に支障をきたしているようですが」
「……くるしい」
「今はフードを取るのがよいでしょう。息ができませんからね」
「むぅ……」
「ふたりだけの時は被らなくてもいいと思うのです」
「癖みたいなものですよ。魔王さんにはないんですか?」
「勇者さんを見つめることですかね」
「そういうことするからフードを被りたくなるんです」
「お顔が見えないので脱いでくれるとありがたいですね!」
「お断りします」
「ですが、フードを被ってばかりいると、いずれ噂が生まれかねません」
「噂?」
「妖怪『黒ずきん』」
「いつの間に妖怪化したんですか」
「体ほどの剣を引きずって夕飯の副菜を一品もらいに来る妖怪です」
「怖くはないですね」
「フードを取ろうとすると引っかかれます」
「猫ちゃんかな」
「おいしいご飯を差し出すと頭を撫でさせてくれるそうです」
「触るな」
「黒ずきんちゃんに懐かれるために、うさぎさんの耳をつけるといいそうです」
「偽うさぎは許さない」
「どうですか?」
「却下で」
「おどろおどろしい妖怪より、かわいい妖怪の話の方がいいと思うのです」
「私を妖怪にしないでください。ただフードを被っているだけです」
「深く被りすぎているので、フードと会話しているのかと思い始めました」
「その通りです」
「その通らないです。ちゃんと勇者さんになってください」
「むずかしい」
「簡単です。フードを取ってお顔を見せればいいのです」
「いま顔がなくて」
「顔がなくて?」
「人様に向ける顔面を作れていません」
「言い方が人外のそれですけど」
「ちょっと待ってください。こうして、ああして、そうして、むずかしい」
「がんばってください」
「私、人間じゃなかったのかもしれません」
「安心してください。勇者は人間しかなれませんから」
「えー……。五パーセントくらい人外でも勇者の許可出しましょうよ」
「ぼくに言われましても」
「そういえば、私が出会ってきた魔族はあまり顔を隠すことをしていませんでしたね」
「変化が上手いか、隠れ潜む能力が高いか、理由は様々です」
「むしろ、フードを被っている方が、一周回って人間だと思いませんか?」
「いえ別に……」
「私のフード形態は、ある意味では究極の人間といえるでしょう」
「一ミリも顔が見えないのですが」
「想像力を働かせてください」
「たぶん表情筋が死んでいると思います」
「正解です」
「生気の感じられないお顔は人間にとってびっくりするものですよ」
「魔族にも驚かれたことあります。まだ殺していないのに死んでるって言われました」
「不覚にも笑いかけたことは謝罪します」
「誰が死人ですかってんですよ」
「フードが不満を言っているようでおもしろい絵面ですね」
「雨風しのげる素晴らしいものですよ。天を仰いで感謝すべきです」
「天を仰いだら脱げますよね」
「聖なる力に守られているので決して脱げません」
「スカートじゃないんですから」
「でも、聖なる力って神様のやつですよね。やっぱりいらない」
「あ、雑にフードを取った」
「視野が三百六十度になりました」
「うさぎさんじゃないんですから」
お読みいただきありがとうございました。
妖怪『黒ずきん』、またの名を勇者さん。
勇者「包まれている感じや隠れている感じが安心します」
魔王「赤ちゃんかな……?」
勇者「何か?」
魔王「い、いえいえ、なんでもありません」