430.会話 砂時計の話
本日もこんばんは。
何分用の砂時計か忘れて結局タイマーを使うみなさまのためのSSです。
「勇者さん、砂時計を見始めてからもう二時間ですよ」
「そうですか。気がつきませんでした」
「いつもより目が死んでいますが」
「ぼーっと見ていたからでしょうか」
「魂が抜けたようなお顔でしたよ」
「意識がなかった気がします」
「微笑ましさが焦りに変わっていったぼくのことも考えてほしいです」
「ごめんなさい。魔王さんも見ますか?」
「ぼくは砂時計を眺める勇者さんを見ます」
「こっち見んな」
「ちなみに、砂時計は初めてですか?」
「はい。おかげで二時間も見てしまいました」
「普通の人は二、三回繰り返して終わりますよ」
「あと何回繰り返せば、砂の叛逆が起きるのかと思いまして」
「また変なこと考えていたんですね」
「落ちるばかりではいられない。あがるぞ、上に!」
「重力に叛逆するのですね」
「無駄なことを」
「辛辣なんだなぁ」
「逆らえない力はあるのです。大人しく身を任せれば疲れないのに」
「ぼくのハグも逆らわないでいてもらえると、ぬくもりをプレゼントできますよ」
「あ、だいじょうぶです」
「普通に断られた……」
「魔王さんも昇ってみてはいかがですか、天に」
「滑らかに飛んでいきましょう。すぐ勇者さんの元に落ちていきますけど」
「ちゃんと避けるので落ちるのは地面ですね」
「受け止めてくれてもいいんですよ?」
「空からのハグは勢いがこわくて」
「やってみないとわかりませんよ」
「いえ、経験者として語っています」
「ぼくはそんなことしていな――あぁあぁあぁあの魔女ですね」
「こわかったなぁ……」
「勇者さんに恐怖を与えたと知れば、あの魔女は何をしでかすかわかりませんよ」
「秘密にしないとですね」
「この会話の間も砂時計で遊んでいますが、気に入ったのなら差し上げますよ」
「壊しちゃいそうなので魔王さんが持っていてください」
「ぼくのポシェットも若干心配ですけどね」
「旅に割れ物は厳しいです。いざとなったら砂だけ取り出しましょう」
「どうやって時間を計るのです。魔法くらいしか思いつきませんが、それだと浮遊魔法と操作魔法の同時発動……? 待ってください、難しいですよ」
「簡単そうなのに」
「しかも、均一に砂を動かす必要があります。発動者の技量が求められますね」
「仕方ありません。何か入れ物に入れておきましょう」
「それがいいですね。ところで、それを砂時計というのですが」
「これが砂時計誕生物語です」
「知らないうちに参加させられていたとは」
「砂が落ち切ったら発動するタイプの魔法はいかがでしょう」
「知らないうちに話が変わっていました。すてきだと思います」
「発動したらどうすることもできない即死魔法です」
「こわいと思います」
「砂が落ちる前に時計を壊せば勝てます」
「強力な魔法には必ず穴があるものですからね」
「砂の落下速度を変えることはできません」
「ハンデは誰にでもあります」
「魔法をくらって死んだ者は砂粒のように散り、その内の一粒が時計に加わります」
「どうしてそういうこわいことをすぐ」
「ゆえに、砂は少しずつ増えていくのですが、数に応じて威力も上がっていきます」
「これ、勇者さんの想像の話ですよね?」
「あなたも砂時計に閉じ込めてあげましょう。命を砂にした後でね」
「新手の怖い話ですか」
「そんな感じです。また意味のないことを考えました」
「実際に存在しそうなくらい、よく考えられた話でしたよ」
「魔王さんが生み出してもいいんですよ」
「それだと魔族になるじゃないですか」
「じゃあ、私がなろうかな」
「勇者さんの魔法は茨だったと思うのですが」
「棘ですり潰して粉々にすることならできそうです」
「言っていることが全部こわい」
「魔王さんの砂時計です」
「おじいさんの古時計みたいに言わないでください」
お読みいただきありがとうございました。
砂時計ってファンタジーワールドに似合うと思います。
勇者「年齢的にはおじいさんよりも遥かに上ですけどね」
魔王「そうそういないと思います」
勇者「おじいさんと古時計もびっくり」
魔王「急な驚きは心臓に悪いですよ」