429.会話 資格の話
本日もこんばんは。
勇者にとって必要な資格とは果たして。
「勇者の資格があるとすれば、それは一体なんだと思いますか?」
「あー、三級に合格しないと二級すら受けさせてくれなかったやつですか」
「そうですね。そうです? そうじゃないです。何の話ですか」
「勇者の資格の話ですよね」
「そうです」
「資格試験があるんですよ。私も神様に受けろって言われました」
「不合格だとどうなるんですか?」
「魔王を倒しちゃだめなんです」
「本気で言ってます?」
「魔族すら退治禁止なんですよ。やってられませんよね」
「ほ、本気で言ってます?」
「嘘ですけど」
「びっくりした」
「神様が選べば勇者になりますからね。くそったれ」
「出た、お口の悪い勇者さん」
「魔王さんが求める勇者の資格って何ですか? 爆弾製造術を会得していること?」
「いえ、心優しいとか、他人を助けるとか、正義を貫くとか」
「絵に描いたようなヒーローですね」
「勇者さんにはあるようでないようなあるものですね」
「ややこしい言い方しないでください。私にはありません」
「言い切らなくても」
「私には勇者の資格も正義も義務も権利も能力もやる気も気力も活力もありません」
「逆に何があるのでしょう」
「睡眠欲ですかね」
「寝る子は育ちます」
「食欲もあります」
「たんとお食べ」
「最近は物欲も少し」
「よいことです」
「これくらいでしょうか」
「ただの普通の人間でしたね」
「知らなかったんですか? 私は普通の人間ですよ」
「普通の人間に魔王をぶつけるのがそもそも間違いなんですけど」
「急に遠い目をしないでください」
「勇者の資格試験を設け、合格した者のみ勇者にする制度を作りましょう」
「受ける人いるんですか」
「勇者に憧れる人はたくさんいますよ。なにせ、世界の英雄ですからね」
「一度も魔王を倒せたことないのに」
「魔王を倒さずとも、魔なるものを退治して平和をもたらしたのは事実ですから」
「魔王さんがいる限り、何度でも生まれてくるんですけどね」
「その度に、その時代の勇者さんが倒し、英雄譚を生むのです」
「そこに突如現れた勇者の資格試験」
「試験に挑む次世代勇者たちの物語が生まれそうですね」
「あまりに厳しい試験のため、挑戦者の九割が死にます」
「風向きが怪しい」
「残った一割で殺し合います」
「風向きが」
「最後に残った人が晴れて勇者となります」
「蟲毒の話でしたっけ?」
「勇者は強くないと意味がないでしょう」
「そうですけど、ずいぶん殺伐とした試験ですね」
「世界の真実を教えてあげるのです。給料の低さと福利厚生のひどさを思い知れ」
「労働環境の告発でしたか」
「箱庭より数億倍マシですけどね」
「流れるように闇を放り込まないでください。ぼくは心臓がもちません」
「ダメージありましたか? よし、積極的に使っていこうと思います」
「この逞しさは勇者に必要なのでしょうか」
「数日間、食事ができなくても死なない訓練をするべきです」
「身体的な逞しさではなく、精神的な方です。食事はしてください」
「何言ってんですか。四日間くらい水だけでも生きられるようにしないと」
「おそろしいことを」
「私は数週間でも平気です」
「ヤメテ……」
「えっへん」
「ホメテナイ……」
「体が丈夫。これこそ、私が勇者に選ばれた理由であり、資格といえるでしょう」
「勇者さん、普通の人より格段に体調を崩しやすいですよね」
「すぐ死んで勇者のサイクルを回すのも必要な資格ですよ」
「なるほどわかりました。勇者さん、お説教タイムといきましょう」
「怒らせちゃった」
お読みいただきありがとうございました。
みっちり叱られた勇者さん。
勇者「冗談ですよ」
魔王「きみが言うとマジなんですよ」
勇者「でも、水だけで生きるのは得意です。私の長所」
魔王「お説教追加一時間でいきましょう」
勇者「……冗談ですよ」