428.会話 おとぎ話の話
本日もこんばんは。
おとぎ話のようなお話を書きたいなと思っている天目です。勇者さんと魔王さんがメインだと難しいですね。
「ぼくたちの存在はおとぎ話といってもよいでしょう」
「勇者と魔王ですもんね」
「ですが、勇者さんは確かに今、存在している命です」
「そうですね」
「勇者さんといるぼくも、これまでのぼくとは似て非なるぼくです」
「そうですかね」
「ということで、ぼくたちの物語をおとぎ話にしようと思うのです」
「やめてください」
「何年も何十年もあとの時代、勇者さんの物語が人々に語られるのですよ?」
「それが嫌だって言ってんですよ」
「すてきなのに」
「見ず知らずの人に私のことを勝手に語られるのは嫌だって、前にも言った気がします」
「そう言うと思いまして、勇者さんによる勇者さんの物語をおとぎ話に」
「自分の話とか語りたくないです」
「ぼくは聞きたいですよ」
「なるほど。それが狙いですね」
「ナンノコトヤラ……」
「私の話を聞いて喜ぶのは、特殊な訓練を受けたひとだけですよ」
「ぼくのことですねっ」
「誇らしげにしている時点でお察し」
「すでにたくさんのおとぎ話がありますが、その中に名を連ねるうれしさといったら」
「白雪姫さんやシンデレラさんに並ぶってことですか。おそろしいことを言いますね」
「勇者さんの偉業を考えれば、おとぎ話になっていないことが不思議ですよ」
「何もしないをしてきた人生だと思うのですが」
「その堕落具合は記録に残すべきです」
「遠回しに働けって言ってます?」
「魔族退治は勇者としてやるべきだと思いますよ」
「血飛沫が弾けるおとぎ話、読みたいですか?」
「ほんとうはこわいおとぎ話ですね。リアリティがあっていいと思います」
「魔族の首が飛ぶシーンを生々しく描写するおつもりですか」
「爽快ポイントですよ」
「笑顔で言わないでください。こどもが泣きます」
「ぼくはスカッとして元気が出るのですが」
「特殊な訓練を受けたひとだけですよ」
「まあ、ぼく魔王ですし」
「それなんですよね。どう頑張っても忘れちゃう」
「あまりに美少女すぎてですか?」
「うるせえんですよ。魔王に関するおとぎ話は数多くあるのに、魔王さんがこんなだからどれも現実味がなくて困ります」
「おとぎ話はファンタジーですからね。リアリティがない方が楽しめるかと」
「やっぱり首を落とすしかないようですね」
「そんな力を入れなくていいんですよ。ゆっくりいきましょう」
「魔族退治しろって言ったじゃないですか」
「……えっへ」
「目を逸らすな」
「ぼ、ぼくは善い魔族ですよ」
「……たしかに、人間に友好的な魔族は見逃していますね」
「そうでしょうそうでしょう。ぼくもそのひとりです」
「魔族を蹂躙する魔王が言っても」
「そんな魔王と対を成す唯一の存在、勇者さん。蹂躙してほしい~。きゃ~!」
「どこから出したんですか、そのうちわ」
「扇ぎましょうか?」
「ああああやめてください読んでいるページがわからなくなるじゃないですか」
「何の物語ですか?」
「短いお話を集めた童話集です。タイトルだけ見て、気になった話を読もうと思って開いたのですが、魔王さんが扇ぐからどこだったか……」
「タイトルは覚えていますか?」
「たしか、『うさぎ』が入っていたような」
「どれどれ……。あ、だめですね。この本は没収です」
「なにゆえ」
「おとぎ話がすべてすてきだと思ったら大間違いです」
「私たちの話をしています?」
「ぼくたちはすてきです」
「本を返してください」
「だめです。ぼくには勇者さんが健やかに成長するよう見守る義務があります」
「ないですよ」
「勇者さん健やか成長用おとぎ話をぼくが創るので待っていてください」
「私をいくつだと思っているんですか」
「まだ赤ちゃんですよ!」
「やかましいわ」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんが読もうとしていたのはグリム童話『子ウサギのおよめさん』です。ネット上で全文が読めますので、気になった方は調べてみてくださいませ。
魔王「うさぎさんが出てくる物語ならぼくが集めてきてあげますから!」
勇者「グリム兄弟みたいに?」
魔王「グリム兄弟みたいに!」
勇者「物語に逃げられそうな気迫ですね」