426.会話 ぬりかべの話
本日もこんばんは。
いろいろ調べてから書こうと思いましたが、脳内に某妖怪のぬりかべしか出てこなかったので、そのイメージで書きました。某妖怪の有名作品です。
「勇者さん、鼻を押さえてどうしました? どこかケガでも……?」
「いえ、ケガというほどではないのですが」
「ですが?」
「……見えない壁にぶつかって」
「ここ、森の中ですよ?」
「わかってますよ。私だっておかしなことを言っている自覚くらいあります」
「ふむ……? ははあ、なるほど。ぬりかべがいた形跡がありますね」
「ぬりかべ? 誰かの魔法ですか」
「いえ、魔物です。魔物ですが、そこまで害はありません」
「鼻をぶつけたのですが……」
「赤くなっていますね。よしよししてあげま――」
「とはいえ、害がない魔物というのは、ほんとうのことだと理解できました」
「おや、さくっと受け入れましたね」
「見えない壁にぶつかった後に気づいたんです。壁の向こうが崖になっていることを」
「ぼくがいない間に危険な目に! はやく言ってくださいよう」
「ケガもないし、いいかなぁと」
「ぬりかべは、勇者さんが崖から落ちることを防いでくれたようですね」
「言ってくれてもよかったのですが」
「この魔物ですが、人の進行を妨げるだけでなく、危険を知らせることもあります。これは個体差がありまして、勇者さんが出会ったのは後者のぬりかべですね」
「私、勇者ですけど助けてもらっちゃいましたね」
「あ、それなんですけどね、たぶんそこまで考えていないと思います」
「あ、この先崖だよ。行っちゃだめだよ。通せんぼしよう。おりゃあ。ってことですか」
「そうです。助ける系ぬりかべはそれくらいしか考えていません」
「助けない系ぬりかべもいるんですか」
「塞ぐだけ塞いで消えるタイプですね。人間は解放された勢いで崖から落ちます」
「悪質だ」
「勇者さんは運がよかったです。ですが、ぼくがいない間にピンチなのは運が悪いです」
「ちょっと散歩に行っただけなのですが」
「目を離すとすぐ命の危険タイムなんですから」
「軽率に死にかけ」
「やっぱりお目付け役が必要でしょうか。さっきのぬりかべ、捕まえてこようかな」
「目に見えないのに?」
「そこは操作できますから」
「私、姿は見ていないので気になります。名前の通り、壁なんですか?」
「そこら辺も個体差ですね。壁みたいなものも、こんにゃくみたいなものも、布団のマットみたいなものも、潰れた餅みたいなものもいます」
「潰れた餅」
「なんでも取り込むので気をつけてくださいね」
「餅を喉に詰まらせて倒す技ですか」
「喉どころか全身餅まみれですけど」
「ちょっと苦しそうだなぁ」
「何を想像しています? ちょっとの話ではありませんよ」
「重量感ある布団を数枚重ねた時の重みと暑苦しさでは?」
「いえ、普通に死にます」
「布団に押し潰されて死ぬのは、いいような悪いような」
「ぬりかべは布団と違いますよ」
「あ、お餅でしたっけ」
「例えですからね」
「あれ、なんでしたっけ?」
「というか、そもそも魔物なので、取り込まれたら魔の毒に侵されますよ」
「…………」
「すっかり忘れてたってお顔ですね」
「すっかり忘れてました」
「ぬりかべにぶつかった鼻を見せてください。魔物にめり込んでいたら大変です」
「鼻先だけ毒なんて嫌です」
「ほんとうですよ。困ります」
「どうせなら全身で」
「勇者さん?」
「魔王さんの圧がすごいので、場を和ませようと」
「圧を増加させる冗談はおやめください」
「同じくらいの身長なのに魔王さんが大きく見える……」
「これが圧です」
「暑苦しい」
「軽率命ピンチ行動を取るのならば、これからこの距離で接しますよ」
「え、かなり強めに嫌だ……」
「ぬりかべのごとく勇者さんを危険からお守りします」
「迫ってこないでください」
「このままいけばハグできるかなって」
「その煩悩をぬりかべに取り込んでもらったらいいんじゃないですかね」
お読みいただきありがとうございました。
ゲゲっと思ったそこのあなた、その作品です。これ以上は言えません。
勇者「ほんとうに魔王さんが大きく見えるのですが」
魔王「実際、数センチ身長を高くしてみましたからね」
勇者「腹立つ」
魔王「そんな」