425.会話 電池の話
本日もこんばんは。
電池という名の推しの話。
「はあぁぁぁあ~…………、疲れましたぁ……」
「珍しいですね。この世の魔族を狩り尽くしてきたんですか?」
「それならスマイル限界突破でパーティーを開きますよ」
「では、疲労が色濃くソファーに沈む魔王さんは一体どうしたというのです」
「めんどうな魔族の相手をしてきただけですよ。ご安心ください。ぶち殺しました」
「私の周りには、すてきな笑みでやばいこと言うひとしかいないんですかね」
「やだもう勇者さんったら、ぼくの笑顔をすてきだなんて……。てれてれ」
「都合のいい聴覚」
「勇者さん、ぼくはくそったれ――こほん、滅ぶべき魔族の相手でとても疲れました」
「本音が」
「相手がくそ雑魚なので体力的な疲れではありませんが」
「せめて隠す努力をだな」
「精神的な疲労がとんでもないのです。もう頭がおかしくなりそう!」
「だいじょうぶですよ。魔王さんの頭がおかしいのはいつもです」
「あ、それならよかったぁ~」
「魔王さんが私に抱きつこうとしてくるので、私の頭もおかしくなりそうです」
「疲れたぼくは電池切れです。つまり充電です」
「離れてください」
「いやですぅ~。ぼくの電池は勇者さんなので~」
「死のうかな」
「なん、なんてこと言うんですか」
「私がいなくなれば、魔王さんの電池が切れてお亡くなりになるのかと思って」
「言葉の綾ですからね。本気にしないでくださいね⁉」
「では、抱きつかなくてもだいじょうぶだということですね。離れろ」
「ああ言えばこう言う勇者さん、賢い子ですね……」
「魔族が単三電池で動いていれば世の中は簡単だったのに」
「まず、単三電池が存在する世の中でいいんですね? 世界観だいじょうぶですか?」
「何をいまさら」
「勇者さんがいいならよいのですが」
「ないなら作るまでです」
「軽率な神」
「魔王さんの電池は、きっと服のひらひら部分に入っていると思うのです」
「もうちょっと急所的なところでお願いします」
「仕方ありませんね。靴の先で」
「なんかこう、もうひと押し」
「なに言ってんですか。靴の先に重い物を落としてみてくださいよ」
「指が痛いやつですね」
「そうでしょう。電池は小指の辺りに入っています」
「うわぁ!」
「…………」
「あの、急に黙らないでください。かなりこわいです」
「…………」
「勇者さん? 絶対に良からぬことを思いついた笑みを浮かべないでください。こわい」
「魔王さん、あなたの電池は肘に入れましょう」
「なにその提案……」
「そして、私が机の角で強打して差し上げます」
「ま、まさか勇者さん、肘をぶつけた時にジーンとするアレを狙っているのですか⁉」
「……ふっ」
「悪い笑み! でも撮っちゃう!」
「そういうことをするから、肘をぶつけた時にジーンとするアレをしたくなるのですよ」
「魔王とて、肘をぶつけた時にジーンとするアレは痛いんですよ!」
「長くてうざいですね。大人しくファニーボーンと言ってください」
「よくご存知ですね。さすが勇者さん」
「低コストで魔王さんを苦しめる方法を探していた時に知りました」
「変なことに気力と時間を使わないでください」
「何事も挑戦です。まずはこちらの単三電池を魔王さんに埋め込みます」
「埋め込めませんからね?」
「魔王のくせに……。妥協してあげましょう。手で持っていてください」
「妥協レベルが高くて助かります」
「次に、机の角……は持ってこられないので、本の角で魔王さんを狙います」
「寸分の狂いもなくぼくの目を狙ってきた」
「間違えました。肘でしたね」
「流れるような動作で肘にっ」
「ずどん」
「いたぁ! ジ、ジーンとしますぅぅぅぅぅぅ!」
「のたうち回る魔王さんの完成です」
「単三電池の意味ありました?」
「魔王さんはくだらない茶番がお好きなようでしたので」
「全編を通してぼくの充電ということですね。お優しい勇者さん……」
「感激のあまり、震えが止まらないようですね」
お読みいただきありがとうございました。
肘をぶつけた時にジーンとするアレ、地味に攻撃力が高いと思います。
勇者「魔王にもこういう感覚はあるんですね」
魔王「前にも言いましたが、人間に合わせていますから」
勇者「なにも、痛覚まで再現しなくても」
魔王「愛ゆえですよ」