422.会話 ピッキングの話
本日もこんばんは。
使えたらかっこよさそうな技術ランキング第27位、ピッキングのお話です(嘘です)。
「勇者であれば、敵に閉じ込められたり囚われたり幽閉されたりする可能性があります」
「意味同じじゃないですか?」
「ぼくは思いました。いざという時に使える知識や技術を教え込み、叩き込み、刻み込まないと勇者さんって簡単に死んじゃうのでは⁉ と」
「私じゃなくても死ぬと思いますけど」
「そういうわけで、今日はピッキングのスキルを身に付けましょう」
「流れが急なんだぁ」
「いざという時、欲しいものはないと考えてください。けれども、いざという時だからこそ使える技があります。こちら、いざという時に使う針金です」
「常日頃から針金なんて持っていません」
「いざという時にだけ出現します」
「欲しいものはないと考えろって言いませんでした?」
「きっとその辺に転がっていますよ」
「テキトーだな」
「まずですね、針金で鍵を開けます」
「まずのところを一番知りたい気持ち」
「次に、脱出します」
「二コマ漫画かな」
「最後に、犯人を針金で倒します」
「そこまでやるタイプなんだ」
「ここまでやってピッキングの完遂ですから」
「序盤で終わったはずの物語を無理やり続けたって感じです」
「犯人が生きている限り、ぼくが終わらせませんよ」
「時効絶対許さない警察官ですか」
「この針金でぐるぐる巻きにしてやります」
「ピッキングの話ですよね?」
「そうですよ。流れはご説明しましたので、次は実際にお手本をお見せします」
「魔王さんがやるんですか」
「言葉で説明するより、見せた方がわかりやすいですから」
「百聞は一見に如かずですね」
「針金を鍵穴に、こう、なんていうか、それっぽく、うーん? 開けるぞって感じで」
「開けるぞって感じ」
「自分を信じることが大切です」
「スキルは信じないんだ」
「針金が壊れないように慎重に、かつ大胆に」
「ふむふむ」
「無理そうな気配を後ろに放り投げて」
「投げて」
「ここでも自分を信じて」
「かなり自分を信じたいんですね」
「疑いたくなる気持ちを抑えて」
「抑えて」
「そうすることで、ほら」
「お、どうなったんですか?」
「まったく開きません」
「扉はビクともしませんね」
「がっつり鍵がかかっています」
「結構、自分を信じていたようですが」
「信じるだけではどうにもならないことが世の中にはあります」
「あ、針金捨てた」
「こんなもので鍵を開けようなど、五百年はやいですよ」
「魔王さんの場合は、五百年かかっても出来ないと思います」
「がんばればきっと」
「まだ自分を信じられますか」
「無理です。ぼく、不器用でした」
「やっと思い出しましたか。遅いですよ」
「何も言わずに、勇者さんに託した方がはやい気がします」
「やったことはありませんが、魔王さんよりは可能性がありそうですね」
「手先が器用な勇者さんなら、ぼくがいなくとも脱出できそうです」
「ピッキングをするだけでけたたましい音を出す魔王さんがいる方が、かえって犯人に見つかり、危ない気がしますね」
「そういう時には針金アタックです」
「鍵開けだって言ってるでしょう」
「武器は必要ですよ」
「確かにそうですが、扉を開けないことにはどうしようもありません」
「だいじょうぶです。いざという時にはこちらの」
「もうピッキングは無理ですよ」
「グーパンで扉を破壊します」
「ピッキング講座、必要でした?」
「犯人を倒すまでがピッキングですからね」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんがいる場合は扉をぶち壊すので安心です。
魔王「扉は押してダメならぶち壊せと言いますし」
勇者「聞いたことないですね」
魔王「引いてもダメならぶち壊すしかないですし」
勇者「どちらにせよ、壊したいんですね」