421.会話 遺言書の話
本日もこんばんは。
安心と信頼のコメディSSです。
「勇者さん、きみにこれをお渡ししておきます」
「また手紙ですか?」
「似ていますが、少し違います。いいですか、よく聞いてください。これは遺言書です」
「遺言書?」
「裁判所で検認済みです」
「なに言ってるのかわからない……」
「ぼくが死んだら開けてください」
「不老不死が何か言ってる」
「ぼくの全財産をきみに譲ると書いてあります」
「割といつも言っていません?」
「効力が違うのです。これは法的にもばっちりなのですよ」
「魔王が何か言ってる」
「いざという時のため、事前準備がとても大事なのです」
「オープン」
「開けちゃだめですよう! ぼくが死んだらって言ったじゃないですか」
「だって死なないから」
「そうですけど」
「『このお金でおいしいもの食べてくださいね』ですか。完全にいつもと同じですね」
「日頃から本音しか言っていないので、あまり変わりませんでした」
「私も書こうかな」
「縁起でもないことしないでください!」
「いざという時のため、事前準備がとても大事なのです、と言われたので」
「誰ですかそんなこと言ったのは!」
「周りを見渡さないでください」
「そしたら、ぼくときみしかいませんよ」
「じゃあ、あなたってことで」
「いやまさかそんなはずぼくが言いました」
「素直でよろしい」
「遺言って言葉の響きが寂しいなぁと思うのですが、勇者さんはどうですか?」
「何も思いません」
「そうでしょうね。お顔にそう書いてありますもん」
「寂しいなら、名称を変えればいいんですよ。『財産が欲しくば私に従えの書』とか」
「ずいぶん上からですね」
「『お前たちの未来をかみっぺらで決められるのってかなりぞくぞくするの書』とか」
「ドSが降臨していますよ」
「『何が出るかは開けてからのお楽しみ! 運が悪ければ私の負債! の書』とか」
「『の書』に信頼を置き過ぎでは?」
「負債の方にツッコんでほしかったんですけど」
「ぼくに負債はないので、安心して開封してくださいね」
「腐るほどお金があるひとの笑顔って腹立ちますね」
「こんなにすてきな美少女スマイルなのに?」
「魔王さんの内臓を売ってお金にしようかな」
「刺激的なこと言いますねぇあああ本気だ本気の目をしていらっしゃるこわい」
「と、冗談はさておき」
「とても冗談には思えませんでしたが」
「この遺言書は燃やしますね」
「当然のように焚き火にくべられた」
「意味のないものですから、せめて暖となれ」
「せっかく検認してもらったのに~……」
「見てください、炎の中であなたの言葉が踊っていますよ」
「あっという間に灰になりましたね」
「このくらい簡単ならうれしいのですが」
「何がですか?」
「魔王殺害」
「あれ、難しいですよねぇ~」
「そっぽ向かないでください」
「ところで勇者さん。遺言書を燃料にして燃え上がった火がいい感じですよ」
「マシュマロ焼きましょう」
「次の遺言書には『マシュマロは一日三つまで』と書いておきます」
「絶対燃やしてやる」
「糖分の摂り過ぎは体に悪いですからね」
「串にマシュマロ四つ挿しているひとに言われたくないです」
「ぼくは不老不死ですから」
「マシュマロが喉に詰まればいいんだ」
「ひどい」
「ていうか、火の勢いが凄まじいですね。ただの紙なのに」
「魔王の遺言書ですからね。そんじょそこらの遺言には負けませんよ」
「マシュマロが消し炭になりました」
「そんじょそこらの枯れ葉の方がよさそうですね」
「そりゃあ、これは焚き火ですから」
お読みいただきありがとうございました。
遺言書という名のただのお手紙。
勇者「いつもと変わらない内容ですね」
魔王「いつもより愛を強めに書きましたよ」
勇者「そうでしたか」
魔王「だから火が燃え上がったのでしょう」