419.会話 お年玉の話
本日もこんばんは。
お年玉が欲しくてたまらないみなさまのためのSSです。
「勇者さん、お手紙ですよ」
「手紙? 誰からですか」
「うさぎモドキです」
「ラパンさん? それはまたなにゆえ」
「危険な気配はないので、開けてもだいじょうぶだと思います」
「どれどれ……。便箋と、お金? ……お金? お、……金……?」
「あぁ、たぶんお年玉でしょうね」
「オトシダマ? もしや、リュミエンセルで活躍できなかった私への?」
「落とし前と勘違いしていませんか? というか、勇者さんは大活躍でしたよ」
「この金貨、どうすればいいのでしょう」
「お年玉ですから、いただけばいいのですよ」
「え、こわい……。なんでお金なの……」
「新年を祝い、金品を贈る習慣があります。特に、こどもに対してお金を渡すことに使われる言葉です。仕事柄、世界中に行くでしょうから、そういう時に知ったのでしょう」
「こどもにお金を渡すといっても、せいぜい親族じゃないんですか?」
「一般的にはそうかもしれませんね」
「私、一度会っただけですけど」
「人外の思考は考えるだけ無駄ですよ」
「魔王さんの思考はわかりやすいんだけどなぁ」
「ぼくは限りなく人間に近い魔族ですから」
「胡散臭い」
「そんな」
「これ、どうやって返しましょう。ていうか、どうやって手紙を送ってきたのやら」
「返しちゃうんですか?」
「だって……」
「勇者さん、最近欲しいものが増えたのではありませんでしたっけ」
「えっ」
「そのために、謝礼で食べ物を買うことも控えたそうじゃないですか」
「それは、別に、お腹がすいていなかったからです」
「節約しながらお金を貯めているように見えたのは気のせいでしょうか」
「うっ」
「旅行鞄に新しく買った小さな箱がありますよね」
「……ありますね」
「中身、なんでしたっけ」
「なんですかね……」
「ミソラさんをおめかしするためのリボン、集めているのでしょう?」
「ぎくっ」
「一緒に旅をしているのですから、気づきますよ」
「……うぅ」
「責めているわけではありません。きみに楽しみが増えたのは喜ばしいことです」
「隠してたのに……」
「なにゆえ隠すのですか。もっと大っぴらに! 派手に! 楽しく! さらけ出して!」
「あなたがやかましいからです」
「だってぇ! ミソラさんばっかりズルいです! ぼくもおめかししてくださいよう」
「ほら、こうなる」
「金貨ならいくらでもあげますから!」
「それはだめです」
「では、モドキからのお年玉はどうしますか?」
「返します」
「勇者さんが昨日見ていたきれいなリボン、少しお高かったですよね」
「ヴッ」
「うつくしい紺の生地に金色の星の刺繍があしらわれたすてきなリボンでしたね」
「…………」
「勇者さんの今の残金では、残念ながらさよならするしかないようですが」
「うううう~……」
「きっと、ミソラさんによく似合うでしょう」
「ああああ~……」
「お年玉、ほんとうに返しちゃうんですか?」
「……………………魔王さんのいじわる」
「めっちゃかわ――じゃない、せっかくのご厚意です。受け取りましょう」
「本音が聴こえたな」
「金貨なんていつぶりですか? やりましたねぇ、勇者さん!」
「ラパンさんって、意外とお金持ちなのかな……」
「お年玉をゲットしたならば、さっそくリボンを買いに行きましょう。この時期、お年玉をもらったこどもたちが胸を張って世間を闊歩しますから、乗り遅れないように!」
「ま、待ってください。まずお礼を、手紙とか、何か――」
「他の人に買われちゃってもいいんですか?」
「うぐっ。……い、行きます」
「たまには素直になるといいですよ。お年玉だけに!」
「だまらっしゃいな」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんにもお金を使う趣味ができたようですね。
勇者「…………えへー」
魔王「すてきなリボンですねとてもお似合いですよところでぼくもお年玉を渡したく!」
勇者「リボンは買えたので、もうじゅうぶんですよ」
魔王「勇者さんってそういうとこありますよね」