415.会話 聖水の話
本日もこんばんは。
恒例のファンタジー回です。
「飲み物を求めてお店に行ったら、こんなものが売られていました」
「なになに……、聖水? ちなみに、お店ってどんな?」
「レストランの横の斜め前の左の脇の道の真ん中の上にあった屋台のような店です」
「そこに聖女がいたんですか?」
「白い布を被った人間ならいましたけど、あれたぶん布団のシーツだと思います」
「百パーセント、パチモンですね」
「飲む分には問題ないですかね?」
「むしろ、何の変哲もないただの水だと思いますよ。よくいるんですよねぇ、聖性を騙って売る悪徳業者が」
「勇者の力がこめられているとかなんとかで、その辺の武器を売りましょう」
「それを勇者さんがやるのですか」
「勇者なのは事実ですし」
「最もタチの悪いやつきた……」
「ごくごく。あ、まじでただの水ですね」
「当然です。聖水がそう簡単に手に入るわけありませんから」
「そもそも、聖水って何――あ、これはあれだ。例の時間の予感」
「『教えて! 勇者さん』のお時間! お任せください。本日は第……何回でしたっけ」
「七回目かなぁ」
「第七回『教えて! 勇者さん』、本日の議題は聖水についてです。ぱちぱち~」
「もうすっかり魔王さんの知識披露タイムになりましたね」
「聖水とは、聖性の水のことです」
「ふむ、わからん」
「元はただの水ですが、それも綺麗であればあるほど力がこもりやすくなります」
「裏を返せば、毒の水でも泥水でもトイレの水でも一応は聖水にはなれるんですね」
「三つ目はかなりイヤですけどね。こほん、聖水を作るには、聖女が長い時間をかけて祈りを捧げ、聖なる力を注ぎ続けることが必要です」
「なんか大変そうですね」
「小瓶程度の聖水を作るのに、一般的に一か月から二か月かかると言われています」
「へえ。小瓶一つでどのくらい効果があるんですか?」
「中級程度なら倒せたり倒せなかったり」
「どっちじゃい」
「雑魚なら問題なく倒せますし、魔の毒を浄化することもできますよ」
「すごいじゃないですか」
「持っているだけで魔除けの効果があるそうですよ」
「えー、勇者要る? もういらんくないですか?」
「あ、勇者さんのそもそもなかったやる気がさらになくなった」
「魔王退治も聖女を百人くらい集めて聖なるパワーボールで倒せばいいんですよ」
「聖女と勇者は全く別物ですよ?」
「知れば知るほど、勇者の必要性がわからなくなります」
「まあまあ、勇者も聖性の存在ですし」
「ん……? つまり、私も聖水が作れる?」
「いえ、無理です。聖水は聖女の特権です」
「やっぱり勇者いらないじゃん……」
「どんどん人の形を失っていく……。あ、そうです! 聖水は魔王にも効きますよ」
「死にますか?」
「ピリッとくるくらいです」
「静電気の方が強い」
「せ、静電気よりは強いですよう」
「こんにゃくと比べると?」
「比になりませんね」
「ほらぁ」
「聖水には聖水の良さ、勇者さんには勇者さんの良さです!」
「聖女の血液にも聖性ってこもっているんですか?」
「突然物騒な話題が」
「聖性ってつまり何なのでしょう」
「勇者さんが遠い目をしている」
「魂? 肉体? それとも服?」
「服ってなんですか」
「なんかその、無駄にひらひらした服のひらひらしたとこに……」
「思考力が低下している気配を察知しました」
「眠くなってきちゃった……」
「眠いと言いながらナイフをもてあそぶのは危険ですよ」
「私の血にも何らかの力があるのかなぁと」
「やめてくださいね?」
「笑顔なのに圧がすごい」
「はいはい、没収没収」
「あー。まあ、なんでもいいです。聖女と関わりたくないですし」
「勇者なのに」
「私、聖女って好きじゃないんですよね」
「勇者なのになぁ」
お読みいただきありがとうございました。
理屈でいえば、オレンジジュースの聖水も味噌汁の聖水も可能ということです。おいしそうですね。
勇者「どんなものにも聖水になれるチャンスがあるのですね」
魔王「そうなります」
勇者「『君も憧れの聖水になれるかも⁉ 今ならお試しコースが一か月五万円から!』」
魔王「詐欺まっしぐらじゃないですか」