413.会話 歩数計の話
本日もこんばんは。
「クリスマスイブなのに歩数計の話?」と思ったそこのあなた。私もそう思います。
「勇者さんがどれだけぐーたらのんびりしているのか知るべく、歩数計をつけてみた結果をお伝えします。よく聞いてください。ゼロ歩です」
「ニューレコードですね」
「さすがに心配です。少しは運動してください」
「私たち旅人は、歩きたくなくても歩かなければいけない時がありますよね」
「そりゃあ、旅をしていれば」
「休める時に休む。旅人の鉄則です」
「一理ありますけども」
「今は休息の時間。ただそれだけです」
「朝から動かずにベッドの上でだらだら。飽きませんか?」
「飽きていないから動いていないんですよ」
「体調が悪いわけでは」
「ないですね。ぐーたらしているだけです」
「それならまあ……。ですが、せめて頻繁に寝返りはうってくださいね」
「私は赤ちゃんか」
「似たようなものです」
「聞き捨てならない……。よいしょ」
「上手にできましたね」
「やかましいです。それに、歩数計で健康度を測るのは間違っていると思いますよ」
「そうでしょうか?」
「たとえば、魔法使いです。彼らは基礎魔法の中に飛行魔法があるそうですね」
「はい、ありますよ」
「ほうきで飛びながら移動していたら、本人は動いていないのと同じじゃないですか?」
「魔法を使うこと自体、エネルギーを使いますけど」
「運動と捉えてよいと?」
「魔力の消費が多ければ、テキトーな有酸素運動よりも疲れると思いますよ」
「なんてこったい」
「勇者さんも、魔法を使ったあとは疲れるでしょう?」
「使わなくても疲れるのでなんとも」
「消費エネルギーだけで言えば、ウォーキングより魔法の練習の方が効果的ですよ」
「知りたくない事実です」
「あ、歩数計を振り始めた」
「これはこれで腕が疲れます」
「そういう道具じゃないんですけどね」
「そもそも、歩数で健康具合がわかったら医者はいりません」
「健康具合を測る要素のひとつに使うんですよ」
「歩数がゼロだったら不健康の確定演出ですか」
「一概にそうとは言いませんけど、不健康になる可能性は高いでしょうね」
「一目見て、すぐにゼロ歩であるとわかるよう、虹色に光ろうと思います」
「最高レアでも出すんですか」
「圧倒的不健康の前にひれ伏せ」
「ぼくは健康になってほしいのですが」
「最高レア勇者を維持するため、日頃から這って移動しようかと思います」
「意地でも歩数を増やしたくないんですね」
「一歩増えるたびにタイキック」
「そこまで体を張らなくても」
「魔王さんに」
「ぼくにかぁ」
「あ、見てください。振っているだけで千歩になりました」
「全然歩いていないのに」
「長い道のりも一歩から始めた結果ですね」
「勇者さんは一歩も始まっていないんですけどね」
「寝返り三回で十歩換算にしてくれません?」
「寝返りってそんなにエネルギー使います?」
「気持ちの問題ですね」
「起き上がる気持ちを持ってくださるとうれしいです」
「それはちょっと」
「遠慮しなくていいんですよ。さあ」
「無理です。動けません」
「被ったお布団の中から歩数計を振る音が聴こえる……」
「二千歩いきました」
「おめでとうございます。お散歩いきましょう」
「ま、待ってください。お布団を引っ張るな愛しのお布団があああ」
「潜っちゃだめですよ。お顔は出してくださいな」
「待って、ほんとに待って。危ないので待って」
「危ないって、どういうことです?」
「朝起きた時から、枷飾りがシーツに変に引っかかって取れないんですよ」
「それをはやく言ってくださいよ⁉」
「さすがにお手洗いをガマンするのも限界に」
「歩数計ボケをしている場合じゃない!」
お読みいただきありがとうございました。
地味に困っていた勇者さん。
勇者「やっと解放されました」
魔王「なんで言ってくださらないんですか」
勇者「まあ、ごろごろできるし……と思って」
魔王「驚いてエネルギーを使いました……」