411.会話 アニマルセラピーの話
本日もこんばんは。
うさぎさんはいいぞ。
「ううむ……。むむむ……。うーん……」
「なにを唸っているのですか。それは……、動物の写真?」
「ああ、これですか。実は――」
「犬、猫、うさぎ、その他諸々。魔族はこういう動物も食べるのですね」
「ぼくは食べませんよ。あのですね、旅に動物を同行させるのもいいかなぁと思い……」
「突然ですね。どういう心境の変化ですか」
「理由は色々ありますけど、一番は勇者さんが」
「私が?」
「もふもふが好きなあまり、獣系の魔物に寄っていくのが危険すぎるからです」
「な……んのことだか」
「雑魚だからいいですが、強いものもいます。気をつけていただかないと困りますよ」
「……なんのことだか」
「こうして勇者さんがしらばっくれるので、いっそ動物をゲットしようと思うのです」
「でも、世話が大変ですよ」
「ぼくも色々調べますし、お金ならありますから」
「魔物なら食事睡眠が不要なやつもいますよ」
「なんで候補に魔物をいれるんですか。やめてください」
「だって、見てくださいよ、このもふもふを」
「どこから持って来たんですか。今すぐ捨ててきなさい」
「このもふもふを?」
「そのもふもふを」
「ひどいですよ」
「ひどくないです。勇者ならば魔物を倒してください」
「あと五分」
「昼寝じゃないんですから」
「こんなに気持ちいいのに~……」
「それです」
「え、どれ?」
「動物と触れ合うことで心身を癒し、生活の質を向上させることをアニマルセラピーといいます。きみにぴったりだと思いましてね」
「動物と触れ合い、心身を癒す……。ハッ、だから魔王さんはいつも私を……?」
「アニマルセラピーを目的にハグしようとしているわけではありませんよ?」
「私はミソラとお話してみたいです」
「残念ながら、ミソラさんは動きませんからアニマルセラピーにはなりません」
「悲しいかな」
「そういうわけで、勇者さんはどの動物がいいですか?」
「大型犬くらいのうさぎでお願いします」
「今まで長く生きてきましたが、見たことないですね」
「性別があるならメスもしくは女性もしくは女の子でお願いします」
「全部一緒ですね」
「ふわふわもふもふを好きなだけ撫でさせてくれる子でお願いします」
「それはお迎えしないことにはわかりかねます」
「ひとりで食事も散歩もしてくれると助かります」
「さすがにそれは」
「命を預かることへの心的負担がえげつないので」
「心的負担を軽減するためのアニマルセラピーなのに」
「セラピれない」
「新しい言葉を造らないでください」
「やっぱり、手軽で簡単にもふもふを摂取し、不要になったら捨てるか倒せる魔物は便利ですよ。一家に一匹、獣系魔物の時代が到来します」
「そんな時代はぼくが破壊します」
「魔王みたいですね」
「実はぼく、魔王でして。そして、魔王なので変化魔法が使えます」
「展開が読めました。結構です。遠慮の意味の結構です」
「ぼくがもふもふに変化するのが一番手っ取り早いですよね」
「アニマルセラピーだっていっているでしょう」
「魔王セラピーの時代を怒涛の勢いで到来させるんですよ」
「あまりの勢いと衝撃で圧し潰される未来しかみえません」
「勇者さんのお隣に魔王をひとり。なんてすばらしいのでしょうか」
「あ、もふもふ魔物をポイされてしまった」
「勇者さんに撫でられるなど、雑魚魔物がされていいことではありません」
「絶級魔族ならいいんですか?」
「そのもう一つ上ならいいですよ」
「魔王さんしかいませんけど」
「つまりそういうことです」
「強引ですね。でも待ってください。魔王さんの心身がハッピーになるなら、正しい表現は魔王セラピーではなく勇者セラピーですよね」
「勇者さんもハッピーになれば解決ですよ」
「難しい」
「難しいかぁ……」
お読みいただきありがとうございました。
うさぎさんはいいぞ!
勇者「どうせなら、魔物は全部もふもふになればいいのにと思うのです」
魔王「より一層、勇者さんがお役目を果たさなくなるじゃないですか」
勇者「いつものことです」
魔王「それもそうでした」