406.会話 ギュゲースの指輪の話
本日もこんばんは。
よくわからない名前の指輪のお話です。
「勇者さん、ギュゲースの指輪というものをご存知ですか?」
「初めましてです」
「つけると透明人間になれる指輪なんだそうです」
「へえ。魔法道具ですかね」
「伝説上の物なのでそこまでは。ところで勇者さん、透明人間になれるとしたら、きみは悪事をしても誰にも気づかれないということです」
「そうですね」
「ですが、きみは勇者です。誘惑に負けず、正義を貫くことが――」
「無銭飲食し放題じゃないですか」
「ちょっと?」
「姿を見られる心配もないので少し人の多いところにも行けそうです」
「それは喜ばしいのですが、さっきの言葉は聞き捨てなりませ――」
「魔王さんは透明魔王になれたら何をしますか?」
「そりゃあ、勇者さんコレクションを増やします」
「聞き捨てならない」
「より自然なお顔を撮ることが可能でしょう!」
「でしょう、じゃないんですよ」
「何か問題でも?」
「問題しかない」
「盗撮はぼくの趣味ですよ」
「開き直った」
「魔王だからいいかなーって」
「悪事の程度が微妙ではありますけどね」
「悪事レベルでいえば、勇者さんの無銭飲食の方が高い気がします」
「同感」
「頷いちゃだめなんですよねぇ」
「魔王さんがいない時にご飯を食べることはほぼありませんから平気です」
「払うお金がありませんもんね」
「そうですね。やかましいわ」
「だからってその辺の雑草を食べるのはやめてほしいのですが」
「気にしないでください」
「ぼくの目の前でやられたら否が応でも気になります」
「こういう時こそギュゲースの指輪」
「ひみつ道具みたいに言わないでください」
「これを使えばあなたも透明人間。無銭飲食覗き見盗撮裸で昼寝もし放題」
「たまに出るお昼の宣伝コーナーもやめてください。服は着て」
「さすがにそんなことしませんよ」
「勇者さんに常識が残っていて安心しました」
「脱ぐのもめんどうですし」
「そっちか……」
「指輪をつけた時だけ服を着た状態になるとかどうでしょう?」
「怠惰人間専用魔法道具の話ですか?」
「変身っぽくてファンタジーワールドにぴったりです」
「指輪を外したら?」
「ありのままです」
「やめてください。年齢制限です」
「指輪を外さなきゃいいんですよ」
「それはそうですけど」
「怠惰人間の私が、わざわざ指輪を外すわけないでしょう」
「それもそうですね」
「納得されちゃった」
「まあ、姿を透明化する魔法なんて高度すぎます。そんな魔法道具が存在するとは思えませんし、勇者さんの無銭飲食欲もぼくのお金で対処できます」
「口先だけでほんとうにやるとは言っていませんよ」
「根はいい子ですもんね」
「……。そもそも、ギュゲースの指輪なんて話題、どこから引っ張り出したんですか」
「勇者さんの指輪を見ていた時に、ふと」
「ああ、この魔法道具ですか」
「指輪は身に付けやすい物ですから、魔力をこめやすく、円状の形が魔法陣を刻みやすいのです。魔法道具として選ぶには非常に適したものといえるでしょう」
「魔除けの効果もあるそうですしね」
「ぼくも指輪、贈りたいなぁ」
「そんなにつけられませんよ」
「べ、別の指ならいかがですか?」
「別の? うーん、あんまりたくさんはちょっと」
「ぐぬぅ……。やっぱり先を越されたのは痛かったかぁ……」
「あ、でも、昨日観た映画でとてもいいなぁと思った指輪があるのです」
「そ、それは一体どんなものですか?」
「メリケンサック」
「勇者さん、辞書で『指輪』と引いてみてください」
お読みいただきありがとうございました。
装飾品がたくさん付いた指輪も武器になりそうだなぁと思う今日この頃。
勇者「パワーがなくとも攻撃力を増加させることができます」
魔王「尖った宝石でもつけますか?」
勇者「敵を倒す前に私がケガをしそうですね」
魔王「やっぱりやめましょう」