403.会話 手袋の話
本日もこんばんは。
11/23は手袋の日なのだそうです。10/29もてぶくろの日だそうですが、過ぎちゃったので今日にしました。
「…………はー……」
「寒いのですか?」
「うわ、びっくりした……」
「手が赤くなっていますね」
「平気です。息を吹きかければ多少マシですから」
「よろしければぼくが温めますよ」
「え、それはちょっと」
「ドン引きしないでください。息を吹きかけるとは言っていません。これです」
「なにこれ。人の手? 不気味ですね」
「手袋の感想が『不気味』は初めて聞きました」
「人間の手で型取りをしたんでしょう。だめですよ、人攫いは」
「してませんよ。ばっちり市販品です」
「闇市か」
「安心安全の一般的なお店ですよう!」
「何に使うんですか?」
「手の防寒着です。色んな種類がありますが、今回は指先まであるものを用意しました」
「こう……?」
「そうですそうです。どうですか、温かいですか?」
「……はい」
「よかったです。勇者さん、マフラーの話を覚えていますか?」
「不器用魔王さんが性懲りもなく編み物に挑戦した話ですね」
「あの時、実は手袋も作ろうとしたんですよ」
「チャレンジ精神には敬意を表します」
「まあ、結果はご存知の通りなんですけどね」
「マフラーが編めただけでも歴史に刻まれるレベルですよ」
「ぼくも、思わず日記に熱く書いてしまいました」
「そのまま燃えちゃえばよかったのに」
「ぼくの宝物への当たりが強いですね。熱烈勇者さんもすてきですよっ」
「この手袋なんですけど」
「熱くなったぼくを冷やしてくれる、まるで冬の化身のような勇者さんですね」
「手袋をしたままだと感覚が鈍ります」
「そもそも、雪の中で戦うことは危険ですよ。勇者さん、雪に慣れていないようですし」
「全く初めましてというわけではないのですが」
「その靴では歩きにくいでしょうね」
「昔は雪でも裸足が多かったですから、まだマシです」
「……。雪に触るのはいいですが、手袋をしてくださいね」
「すぐ口に突っ込めばだいじょうぶです」
「なんて?」
「雪じゃないですよ。指の方です」
「いや、なんて?」
「口の中はあったかいかなって」
「ワイルドな思考回路ですね。手袋してください」
「ちょっと落ち着かない……。そわそわして……」
「じきに慣れますよ」
「魔王さんは手袋しないんですか?」
「この程度ならばなんともありません」
「魔王ずるい」
「ですが、今は勇者さんもとい人間に合わせている部分があります」
「つまり?」
「普通に寒いです」
「手袋してください」
「勇者さんの分を買ったら満足しちゃいまして……」
「はあ……。また自分の分を買わなかったんですね」
「死にはしませんからね」
「……どうぞ」
「片手? い、いいですよう! 寒さに弱いきみのためのものなんですから」
「ミソラに手を添えれば温かい……気がするので、だいじょうぶです」
「もふもふぱぅわぁーがこんなところで」
「今だけですよ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えちゃいますね」
「片手だけって変な感じです」
「手袋をしていない方の手は繋ぎますか?」
「は?」
「すごい。手袋のぬくもりを一瞬で消し去る冷たいお声」
「わけのわからないことを言っていると、手袋を投げつけますよ」
「えっ、いやですよう。仲良くしましょう?」
「どういう意味ですか」
「ある国では、手袋を投げつけることは決闘の申し込みを意味するのです」
「へえ。たしかに、手袋をしたままでは剣が持てませんもんね」
「そういう理由なんですかねぇ……?」
お読みいただきありがとうございました。
ひそかに手編みの手袋に再チャレンジしている魔王さんがいるとかいないとか。
勇者「やっぱり片方だけだと寒いです」
魔王「では、手を繋いで――!」
勇者「はやく宿に行きましょう」
魔王「そうですね……」