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402.会話 水族館の話・サメ

本日もこんばんは。

224話『コレクションの話』のあとがきで言ったことがついに――。

「今日は水族館にやってきました」

「魚がたくさんいますね。塩焼き、お刺身、煮付け、お鍋……!」

「食べてはいけませんよ。このお魚は観賞用です」

「ええー」

「それより、勇者さんこっちこっち!」

「なんですか」

「きみを連れてきた理由がこちらにあるんですよ」

「なんだか大きな水槽……あ」

「これです!」

「サメ……」

「どうですか? 本物を見るのは初めてですよね」

「…………」

「あれ? も、もしかしてそんなに求めていませんでした?」

「サ……」

「サ?」

「サメっ……! 本物⁉」

「おお? おおお?」

「魔王さん、サメがいますよ! 動いています。私の目の前にサメがいま――」

「どうしました?」

「……サ、サメがいますね。それだけです。別になんてことありません」

「はしゃいでいいんですよ?」

「はっ……しゃいでなどいません。初めて生きているのを見たので驚いただけです」

「そんなに深くフードを被ったらサメが見られませんよ」

「人間から姿を隠しているのです」

「なるべくお客さんがいない日を狙ったのでガラガラですけど」

「……は、はしゃいでいません。私は冷静です」

「うふふ~。そうですね、勇者さんは冷静です。視線は混乱しているようですが」

「わぁ……、近くに来た……。こんなに間近で見られるなんて……」

「理性と正気を破壊する愛すべきB級サメ映画を好んで観る勇者さんに、ぜひ本物のサメを見ていただきたいと思ったのです。喜んでいただけましたか?」

「それはもうっ……、ええと、まあまあですかね」

「まあまあですか」

「……中の上、くらいはあるかもです」

「そうですかそうですか」

「……もうしばらく見ていても?」

「お好きなだけどうぞ」

「…………えへ」

「…………………………」

「魔王さんは他の魚を見てきてもいいですよ」

「…………………………」

「魔王さん?」

「……水族館、まじで最高ですね…………!」

「魔王さんもサメ好きだったのですか。私がへんてこサメ映画を観続けた効果ですね」

「例のごとくそっちではなく」

「でも、映画で観るサメとは形も大きさも違うようです」

「いま水槽で泳いでいるのはジンベエザメといって、サメの中でも最大級のサイズを誇るのですよ。ですが、見た目に反してプランクトンしか食べないといわれています」

「ぷらんく……?」

「水中や水面を漂泳するとても小さな生き物のことです」

「ジンベエザメから見た人間の話をしています?」

「いえいえ。プランクトンは人間から見てもとても小さいのですよ」

「お腹いっぱいになるのかなぁ」

「たくさんたくさん食べるのでしょうね」

「人間を食べた方がはやくないですか?」

「穏やかな雰囲気を壊すことに躊躇いがないですよね」

「いつもの映画では、サメは人間を食べるために生きていましたよ」

「そういった映画で使われるのはホホジロザメでしょうね。人喰いサメのモデルです」

「どこにいるんですか?」

「この水族館にいるのは、人に害のない温厚なサメばかりですよ」

「人喰いサメ水族館はないんですか」

「やだこわい……」

「凶暴なサメの中でも、人を食べた記録を持つサメだけを集めた水族館」

「こわすぎ……」

「そこにやってきたサメ研究家のジョーズ」

「どこかで聞いた名前ですね」

「彼はサメに食べられた人間と会話し、サメワールドとの交渉を図る」

「サメワールドと手を取り合おうとしているのに、会話するのは人間なんですね」

「なに言ってんですか。サメ言語を人語に変換するため、自ら喰われたジョーズの弟、ピーターを介して交渉するんですよ」

「ちょっと待って頭が追いつかない」

「サメに両親を殺された兄弟による、命を懸けた新時代への挑戦です」

「それ、今日の朝に観ていた映画の内容ですか?」

「おもしろかったです。安心と信頼のとんでも展開の連続で」

「勇者さんが楽しいならなんでもいいや……」

「ピーターが自らをサメに捧げるシーンは涙なしでは観られませんでした」

「泣いている様子は一ミリもなかったような」

「ていうか、サメに食べられる瞬間に映ったお手製人形が絶妙なクオリティだったので思わず笑ってしまいました」

「真逆の感情を引き出しているじゃないですか」

「サメもパペットでした」

「緊張感が」

「あれ欲しいなぁ」

「ギリギリ売店で売っていそうな商品ですね」

「まじですか?」

「水族館にはお土産がつきものです。帰りに寄っていきましょうね」

「サメのパペットで魔王さんの頭をかじる夢が叶うかもしれません」

「そんな夢は捨ててしまいなさい」

「ジンベエザメの大きな口の中で昼寝したいです」

「落ち着かないと思いますけど……」

「あ、息ができないや」

「それを忘れていたんですか」

「眠くて頭が働いていないようです」

「お昼前ですけど、疲れちゃいましたか?」

「いえ、ジンベエザメが口を開ける様子を見ていたらつい……。ふわ~ぁ」

「……あ、なるほど。あくびに見えますね、あれ」

「だからかぁ……」

「ここで寝ちゃだめですよ」

「わかっています。サメを食べるんですもんね」

「食べません」

「ええー……。じゃあ、お土産屋さんでパペットでも探そうかな」

「サメのぬいぐるみは売っているはずですよ」

「サメの……ぬいぐるみ……!」

「買いますか? ミソラさんに次いで、ふたりめのぬいぐるみ仲間に――」

「だめです」

「なにゆえ?」

「サメはふわふわしていません」

お読みいただきありがとうございました。

よかったね勇者さん。


勇者「帰ったらサメ映画観ようっと」

魔王「リアルサメを観たあとにサメ映画ですか」

勇者「作り物のサメを脳内で補完するんです」

魔王「器用なことを」

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