401.会話 櫛の話
本日もこんばんは。
我が家のうさぎさんはブラッシングがあまり好きではありません。切ない。
「魔王さん、目の細かい櫛はありますか?」
「櫛ですか? 珍しいですね、ヘアケアに欠片も興味がない勇者さんが櫛を……。お任せください! ぼくのポシェットにはありとあらゆる種類の櫛が入っております!」
「これ借りますね」
「どうぞどうぞ。いやぁ、ぼくはうれしいですよ。勇者さんがついにご自分の髪の美しさに気づき、お手入れをしようと思い立ってくださるとは……」
「私の髪?」
「そうですよ。ブラックダイヤモンドのように深く澄んだ黒の髪なのです。それをテキトーにほったらかしていた勇者さんが、ご自分から櫛をお求めになるなんて感激です」
「私が使うのではありませんけど」
「えっ」
「ミソラの毛並みを整えるために使うんですよ」
「ミ、ミソラさんなのですね……」
「ぬいぐるみではありますが、毛がふわふわなので梳いてあげたくなりまして」
「きっと喜ぶと思いますよう……。うぐぅ……」
「なんで悔しそうなんですか」
「ぼくの髪、真っ白ですよね」
「そうですね」
「絹のように滑らかで、光を纏う美しい白ですよね」
「……まあ」
「梳きたいなぁと思ってきませんか?」
「別に……」
「こんなところに櫛が!」
「さっきご自分で取り出したでしょう」
「ぼくの髪を梳くのにぴったりな目の細かさ!」
「ミソラにもぴったりですね。借りていいですか?」
「さ、先にぜひぼくを……」
「だいじょうぶです。結構ですの意味です」
「そんなこと言わないでくださいよう! いつか勇者さんに梳いたり結ったりしてもらうために、毎日のお手入れは欠かさずしているんです!」
「丁寧に手入れしているなら、私が梳かなくてもいいでしょう」
「ヴッ!」
「むしろ、変に引っかけて傷つけてしまうかもしれません」
「それでもいいですので!」
「嫌ですけど……」
「これも変化魔法のひとつですから、ご安心を」
「毎日手入れする意味とは」
「い、意気込みが大事なのです。それに、この髪はぼくにとって大事なものですから」
「そうなんですか」
「はい、とても」
「それなら余計に――」
「勇者さんに梳いてほしいです! 大事だからこそ!」
「……ミソラが終わって力が残っていたら構いませんよ」
「はいっ、ぜひ」
「そういえば、ミソラの毛並みは魔王さんの髪に似ていると思います」
「ぬいぐるみとは思えない美しさですよねぇ」
「こういう点も、ミソラが高価な理由なのですか」
「一つではあるでしょうね」
「まあ、絶対売りませんけど」
「気に入っていただけたようでぼくはうれしいです」
「もふもふー。ふわふわー」
「気に入り過ぎている感じもしますが、それもまたよし」
「もう魔王さんなんていりません」
「それは聞き捨てなりませんよ⁉」
「櫛といっても、いろんな種類があるんですね」
「華麗なスルー」
「これとか手触りがいいですね」
「木製の櫛ですか。櫛自体のお手入れが少々大変ですが、そのぶん長持ちするのですよ」
「絵が描いてあったり、模様がついていたり、かわいらしいですね」
「勇者さんが櫛の良さに目覚め始めた気配を察知しました」
「そんなことはありませんけど」
「もしよろしければ、一緒に櫛を買いに行きませんか? プレゼントいたしますよ」
「いえ、だいじょうぶです」
「そう言わずに」
「ほんとにだいじょうぶです」
「ぼくに櫛を贈らせてください。お願いします」
「……ははーん、また何か裏があるんでしょう」
「ぎくっ」
「ミソラ用の櫛なら欲しいですけどね」
「きみに贈らないと意味がないんですよう」
お読みいただきありがとうございました。
ミソラの話をするたびに、資料用にうさぎのぬいぐるみを買うべきか……と思う天目です。おすすめのぬいぐるみがあったら教えてくださいな。
勇者「ほんとうにきれいな毛ですね」
魔王「心なしか自慢そうな顔をしているような……」
勇者「眼科行った方がいいですよ」
魔王「ほんとにそう見えるんですよう……」




