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394.物語 ⑤新たな作戦

本日もこんばんは。

登場キャラが増えるとつい会話も増えるのですが、当作品は会話で生きているので何の問題もないと自信が湧きました。そういうわけで、第五話です。

 しばらく走り続け、やがてライトとは別の光源を見つけました。慎重に身を出すと、そこは外でした。

「……国内に出たのでしょうか」

 入り組んだ路地裏です。ひとまず物陰に移動し、様子を窺います。

どうやら、誰もいないみたいですね。

ほっと息をつき、走った疲れから深呼吸を繰り返しました。

「ん……?」

 ふと、何かの匂いがしたように思い、辺りを見回します。何もない。

「……」

 今度は嗅ぐつもりで呼吸しましたが、よくわかりませんでした。気のせい……みたいですね。って、こんなことをしているヒマはないんです。はやく魔王さんたちと合流しないと。私はまだ湿っているフードを被り、知らない路地裏を縫うように進んでいきます。

 まだ午後のはやい時間のはずですが、どうにも陰鬱な感じがしますね。

なぜでしょう。特に建物が古ぼけているとかゴミが散らばっているとかではないのですが。

ずっと地下水路にいたからですかね。いや、ルゥがいた場所は特にうつくしい場所でした。なんていうのでしょうね。神殿? 祭祀場? とにかく非現実的な空間といえるでしょう。住む……には少しね、ちょっとね……と思いますが。

 路地裏を抜けると、人通りのあるストリートに出ました。

どこもおかしな様子はありませんね。ばっちりフードを被っていればだいじょうぶそうです。魔法は使えますが、魔女ではないですし。

魔王さん、アナスタシア、コレットさん、ラパンさん、誰でもいいから会えればよいのですが……。きょろきょろと見回しながら『怪しくないです』という雰囲気で歩いて行きます。

「……そう簡単には見つけられませんよね」

 国土がどれくらいあるかわかりませんが、多少は広いはずです。エトワテールなんかめちゃでかでしたよ。

はぐれた際の合図でも決めておくんでした。人数が増えるとこういう時に困りますよね。

……いや、お間抜けさん。はぐれた私が悪いんです。人のせいにしてはいけません。

少しペースを速めないと計画を立てる時間が減ります。仕方ない、走るか。

 そう思った時でした。

近くで会話する若者たちの声が聞こえました。

「おい、向こうの広場でうさぎが芸をやっているらしいぞ」

「ちげぇよ。ありゃ犬だって」

「ばかいえ。背中を見てないのか? 鳥の羽がついていたぞ」

「お前こそあほか。うさぎに羽が生えてるわけねえだろ」

「いいから見に行こうぜ。どんどん人が集まってるからいい席が埋まっちまう」

 などなど。うさぎで犬で鳥ですか。なるほど。それはすごい動物が……って、そんな動物がいるか! どう考えてもラパンさんですよね。うさぎで鳥ならラパンさんしかいません。それより、犬だと思った若者よ。眼科に行け。

 私は若者たちのあとを追い、広場までやってきました。

人々が歓声をあげ、注目しているその先では。

「やっぱり……」

 うさぎで犬で鳥ことラパンさんが芸をしていました。

耳を伸ばして形を作ったり、もふもふできゅーとな体でポーズを取ったり、小さな羽をぱたぱたさせて飛ぶふりをしたり。あちこちから「かわいー!」やら「その耳で捕まえてー!」やら「しっぽ! しっぽ! しっぽぉぉぉぉぉぉ!」やら、かなり人間性を失いかけている人々の声が飛び交います。

まじで病院行った方がいいかも。

ともあれ、ラパンさんがいるということは、彼女たちも近くにいるはずです。

 集団の中には入りたくないので、うしろの方から確かめていきます。

ええと、目印になりそうなのは、魔王さんの光輪か、三人の中で一番背が高いアナスタシアか、コレットさんは……あんまり目印がないですね。

光輪と薄緑髪を交互に浮かべ、あっちこっちを探します。

ううん……見当たらない……。わっ、また人間が増えた。噂が広まり、どんどん見物人が集まってくるのです。うぅ……人混みやだ……。

 心臓の鼓動が速まるのを感じ、胸に手を当てながらよろよろと集団を離れました。

ぐるんぐるんに転がされた感覚ぶっ壊し攻撃もまだ残っているようです。

服も乾いていなくてちょっと寒いし、重いし、走って疲れたし、お腹すいたし……。

ちょっとだけ休んだら、また探しに――。

「サヨちゃん!」

「ん……?」

「サヨちゃん見つけたぁぁぁぁわぁぁぁぁぁんっ‼」

 声の方向から突撃してくるのは安心と信頼のアナスタシア。

涙を流しながら両手を広げ、そのままの勢いでハグ――。

「ふぐっぬぅぅ……!」

 しませんでした。直前ストップ。

「許可……取ってないから……ハグダメ……ダメ……シズマレ……!」

 心配してくれたのでしょう。金色のしずくをぽろぽろ流しながら「サヨぢぁん、ケガしてない……?」、「無事? こわいことなんにもながっだぁぁ?」と彼女の方が重症の様子。

「ごめんなさい、だいじょうぶです。えっと……ハグしますか?」

「ずるっっ‼」

「あ、私いま服が濡れて……。まあ、いいか」

 びぃぃぃぃと泣くアナスタシアをあやしていると、私を見つけてほっとした表情をした魔王さんもやってきました。泣いているアナスタシアを見て呆れたようにため息をつくも、やれやれと笑って首を振ります。

「おケガは?」

「ありません」

「合流できてよかったです。お疲れでしょう。コレットさんの家に行きましょうか」

 魔王さんは手を挙げて合図します。

「服が濡れているようですが」

「水路に落ちました」

「風邪をひかないでくださいね……。ラパンさんが戻ったら移動します」

 そう言う魔王さんは身慣れないローブに身を包み、いつもの白さが半減していました

頭の光輪もないです。だから見つからなかったのか。

「魔王さんの本体はどこに行ったんです?」

「目立つから隠してほしいと言われたので腕輪に」

 ほら、と見せてくれた腕にはふたつの光輪。大きさも変えられるんですね。便利。

「というか、これが本体じゃない――」

「やあ、待たせたね。お帰り、ユウ。無事でなによりだ」

 一仕事を終えたラパンさんが見物人たちに手を振りながら戻って来ました。

「コレットの家に行こう。まずは服を乾かさないとね」

 ラパンさんは私を抱きしめて泣きまくるアナスタシアを見て、

「二人分の」

 と笑いました。



 光の国リュミエンセル不法入国完了ということで、私たちは事前に潜入していたコレットさんの家にやってきました。

濡れた服を乾かしている間、彼女が用意してくれたホットココアを飲む私と、

「ごめんなさい、わたしまで……」

 ようやく泣き止んだアナスタシア。今は恥ずかしい期間に入っているようです。あ、泣いたことにではなく、抱きついて服を濡らしたことにです。

「いいのよ。それより、サイズが合わなくてごめんね」

「じゅうぶんです……」

 コレットさんは二十歳ということでしたが、男性ほど体格差が出るわけではありません。とはいえ、私はちょっとぶかぶかですね。袖をまくらないとカップが持てません。

ちなみにアナスタシアは……。

「胸がきつい……」

 胸元の部分を引っ張ってため息をついていました。

「…………」

「ん? どうかした、サヨちゃん」

「いえ……」

 まあ、アナスタシアの方が上背がありますし当然ですよね。

私だってないわけではない……し……。

「…………」

「なに? 魔王ちゃん」

「でかけりゃいいってもんじゃないんですよ!」

「え、なんの話?」

 ていうか、なんでこのひとは悔しそうにしているんでしょうね。変化できるくせに。

 私たちのくだらない会話を眺めていたラパンさんは、一区切りついたのを見て「さて、ユウ。君が見てきたことを教えてくれるかな」とカップを傾けました。……飲めるんだ。

「私が見たものですか。ええと、どこから話そうかな」

「そもそも、サヨちゃんはどこに行ってたの? 武器も置きっぱなしで危ないよ」

「行ったというか、落ちたというか」

 私は窪みのトラップについて説明しました。

「大剣を背負っていたら落ちなかっただろうね」

 正論だと思います。窪みに残された荷物たちは魔王さんの手によって運ばれ、今は壁際に置かれています。

「落ちた先が水だったのも奇跡だね。そのままコンクリートなり硬い場所に叩きつけられたら大ケガでは済まない」

「水面も危険ですけどね」

 付け足す魔王さん。なんだかラパンさんへの視線が鋭い気がします。

「サヨちゃんがケガしてたら全部ぶっ壊して監視も気にせず空から脱出してた」

 アナスタシアの視線も鋭い。彼女はラパンさんと魔王さんのふたりを睨んでいました。

何かあったのかとコレットさんを見ます。

「……あわわわ。な、仲良くしてください、みなさん~……」

 あ、なんか哀れ。そうですね、まだ任務は達成されていません。これからなのです。仲違いをしていてはルゥを救えない。

「水路に落ちたあと、私は少女に出会いました」

「……」

「……!」

「女の子?」

 ラパンさんと魔王さんがハッとし、アナスタシアは小首を傾げました。

「おそらく、私たちが救出しようとしている子です」

「見つけたの⁉ さすがサヨちゃん!」

「ほんとですか、ユウさん! 私、半年かけても見つけられなかったのに……」

 喜びながら落ち込むコレットさん。えと、ほんとに哀れになってきました。

「これが勇者様のお力ということね。でもよかった。これで一気に計画が進むわ」

「ねえ、どんな子だったの? 歳は?」

 私は見たままを伝えました。あの子に……ステラさんにそっくりだということは伏せて。

「まだ小さいのね。そんな子を殺そうとしているってこと? この国だいじょうぶ?」

「常識は作れるものだよ、アナスタシア。君も知っているだろう」

「……うん。あ、そういえば名前。聞いてなかった」

「ルーチェというそうです」

「ルーチェかぁ。かわいい名前だね。うん、はやく助けてこんな国さっさと脱出しよう」

「では、改めて『ルーチェ救出任務』と題しまして、作戦を立てましょう。ユウさん、彼女がいたという場所を詳しく教えてください」

「わかりました。でも、その前にもうひとつお伝えしたいことが」

「なにかな?」

 ラパンさんの耳が伸びる。

「ルゥ……ルーチェの食事を運んできた人物を目撃しました。彼女曰く、その人以外と会ったことがないそうです」

「おっと、それはビッグニュースだね」

「もしかして、ルーチェちゃんを殺そうとしている人のトップとか?」

「そもそも、ぼくたちは儀式についても詳しく知りませんよ。もらった資料に書いてあったのはリュミエンセルの国土情報や信仰される光の神について。そして、魔法使いに対する強い差別意識のことくらいです。作戦についてはあまりに簡素な書き方でした。少女を殺すことについても国民全体で容認しているのか、一部の団体だけが企てているのか、ルーチェさんの存在はどの程度の国民が知っているのか、あまりに情報がなさすぎます」

「それはわたしも思った。これじゃあやりようがないよ。コレットさんの言う計画も心配になっちゃう」

 そう言われたコレットさんは「ごもっとも……」と苦笑しました。

「私は半年間リュミエンセルに滞在しながら地下水路の経路調査と国民への聞き込み、保護対象である魔法使い……ルーチェさんですね、彼女のことを調べてきました。経路調査は順調と言えますが、それ以外は……。怪しまれないように人間関係を築きつつ聞き込みをしましたが、どうにも言っていることが二転三転するんです」

「怪しまれているのではなく?」と魔王さん。

「いえ、まるで元からそうだったように思考や意見が変わっていくんです。昨日聞いた話が翌日になったら変わっていて、そのことを問うても『そんなこと言ってない』って」

「なんかこわいね」

 素直な感想をこぼすアナスタシア。

「儀式に興味がなさそうだった人を見つけたので話を聞き、少し話してもらったところで用事のために別れ、翌日また話をしてもらった時は特に違和感を覚えました」

「違和感?」目が光る魔王さん。

「次の日に会ったら、儀式が楽しみで仕方ないって言ったんです。興味を持つ何かがあったのか尋ねたんですけど、その人は『前から楽しみだった』と当然のように……」

 たしかに、少し変ですね。

「演技してたとか?」

「そんな風には見えなかったわ。だからこそ、私がおかしいんじゃないかと思えてくるの」

 不安そうなコレットさん。どうやら、同じような人がこの半年増え続けているようでした。昨日会った人が翌日はまるで別人。不安に思うのもわかります。

話を聞くだけでもおかしいと思うのですから。

「魔法使いの話はご法度。ゆえに訊くことすらできず、ルーチェさんの情報は欠片も入手できませんでした」

 頭を下げるコレットさんに、「相手が相手ですからね……」とこぼす魔王さん。

「地下水路の経路を調べただけでもじゅうぶんさ」

「フォローありがとうございます。ですが、もっとよく調べればルーチェさんに辿り着いたってことですもんね……。はあ、鍛え直さないと……」

 落ち込む魔女を横目に、魔王さんは「計画について教えてください」と話を促します。

「ざっくり言えば、ルーチェがいたという地下空間に侵入、足枷の機能は気にせず国外に出ればこちらの勝ちだよ」

 ざっくり過ぎでは?

「コレットさんの地道な調査の意味がない気がするんですけど」

「いい質問だね、アナスタシア」

 褒められた気のしないアナスタシアは眉をひそめました。

「コレットは決して無駄ではない。僕たちは外堀から埋める方法でルーチェを探していたが、居場所がわかった今、律儀に監視を気にする義理はない。国外に脱出すればいくらでもやりようはあるからね」

「その言い方だと、ネックだったのはルーチェちゃんの居場所だけだったんですか」

「そうなるね」

「つまり、サヨちゃんさまさまってこと? さっすがぁ!」

 とてもうれしそうなアナスタシア。ありがたいです。でも、居場所を突き止めてほしいなら最初に言って欲しかったです。なんだか無用な焦燥を抱いた気がしますよ。

「ルーチェさえ確保できれば儀式だの仮面の人だの一切関係ない。一息ついたらさっそく動こう。三日後の儀式まで待っている道理はないからね」

 私たちは各自準備を整え、次の計画に移ることになりました。

「では、第二段階の説明をするよ。経路調査組、ラパン、マオ、コレット。情報収集組、アナスタシア、ユウ。僕たちはルーチェまでの地下水路ルートを確認し、事前の罠を張る。君たちは人が集まる場所で儀式や怪しい話などルーチェに関係していそうな情報を集める。目立たないよう、ある程度集めたら戻るように。合流し、作戦決行の可不可を確認後、実行に移るよ。ここまで質問はあるかい?」

 手を挙げる者はなし。

私は経路調査の方がいいと思ったのですが、出口の場所を教えたらだいじょうぶだと言われました。たしかに、辿ってきた道は覚えていませんからね。

「ユウ、大剣は置いていくように。その大きさでは目立つし怪しまれる」

「……わかりました」

「安心しておくれ。よそ者かつ魔法使いだと気づかれなければ危険はほぼない」

 ……ほぼ。

「少女二人だから危ない人には気をつけるんだよ」

「正当防衛は構いませんよね?」

 すでに杖を持っているアナスタシア。目がこわい。

「杖もしまっておくように。魔女だと言っているようなものだよ。ともあれ、危険だと判断した時の対応は任せる。ルーチェの保護は重要だけど、君たちも大事な子だからね」

「……はい、師匠」

 へんてこな顔をしたアナスタシア。自分の感情に追い付いていない……といった感じです。だいじょうぶでしょうか?

「それでは、二時間後にここに集合するように。問題が発生したら」

「したら?」と、アナスタシア。

「がんばっておくれ」

「えぇー……」

 口をへの字に曲げるアナスタシアを通り過ぎて外に出て行くラパンさん。続いて「がんばりましょうね」と意気込むコレットさん。「だいじょうぶかなぁ……」と肩をすくめるアナスタシアが扉の外に消えていきます。

 残ったのはいつものふたり。

魔王さんは経路調査組なんですよね。勝手に一緒だと思っていたので発表された時は少し驚きました。

「お気をつけて、勇者さん」

「話を訊くだけですから」

「彼女がいるからだいじょうぶだと思いますが、それでも心配です。ほんとうならぼくも一緒に行きたいのですが……」

「安心してください。何かあればちゃんと戦います。魔王さんやアナスタシアよりは弱いですが、これでも勇者ですから」

「……わかりました。では、またあとで」

「はい」

 不安な色が消えない魔王さんに手を振り、私とアナスタシアは町の方へ歩いて行きました。

お読みいただきありがとうございました。

前半はここまでになります。後半もお楽しみくださいませ。

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