388.会話 鈴の話
本日もこんばんは。
おすすめの鈴の音があったら教えてください。
「今日は少し奥深い山を進みますので、これを持っていてくださいね」
「……いい音」
「鈴ですよ。野生動物に人間の存在を示し、追い払う効果があるといわれています」
「あ、入口の看板に『熊出没注意』と書いてありましたね」
「熊も危険なんですけど、これは魔族用です」
「魔族にも鈴が効くんですか」
「鈴の音には魔除けの力があるといわれているのですよ」
「へえ。……それそれそれそれ」
「ぼくの耳元で鳴らさないでください」
「どうですか?」
「鈴の音は虫除けスプレー程度の効果しかありませんよ。雑魚魔物が嫌がるレベルです」
「全然効果ないですね」
「ないよりマシってことです。ですが、聖女の加護もなく、魔物を倒せる強さもない人々にとっては、それなりに重要な物なのですよ」
「へー」
「興味なさそう」
「今まで散々、山やら川やらそこやらどこやらを旅しておきながら、今さら鈴って」
「備えあれば憂いなし、です」
「ポシェットに備えまくっているひとに言われましても」
「鈴ならいくらでもあります」
「一つでいいです」
「全身につけないんですか?」
「全身鈴人間と一緒に歩きたいですか?」
「それが勇者さんならぜひ」
「せめて少しくらい迷ってほしかったです」
「何を迷うことがあるのですか?」
「曇りなきまなこやめてください」
「勇者さんへの危険を少しでも減らすため、ぼくも鈴をつけましたよ」
「首につけると猫みたいですね」
「撫でていいですよ」
「遠慮しておきます」
「そう言わずに」
「かなり強めに結構です。あっち行ってください」
「ええん……。魔王、悲しいです」
「とぼとぼ歩いて行くたびに鈴が鳴っている……」
「これがぼくの泣き声ですよ」
「きれいですね。いくらでも泣くといいです」
「鈴が代わりに泣いてくれるので、ぼくは楽しくおしゃべりしようと思いますっ」
「魔王さんは黙っていてください。鈴の音が聞こえません」
「勇者さんが辛辣でガチ泣きしそうです」
「熊はどこにいるのでしょう」
「山にいて熊を探すのは危険行為だと思うのですが」
「魔王さんがいるので今日の夕飯になるとしか考えられなくて」
「もちろん、ぼくがグーパンで倒しますけども」
「熊肉だぁ。わーい」
「あ、鈴を振り回して歩くと危ないですよ!」
「周囲に誰もいないからだいじょうぶですよ」
「いえ、そうではなく」
「なんです、前方を指さして……ん?」
「魔物が出ますよ」
「鈴の意味ってなんでしたっけ」
「魔除けです」
「魔除けとはつまり、どういう意味でしたっけ」
「魔を避けるってことです」
「私の目の前にいるのはなんですかね」
「雑魚魔物です」
「魔除け……」
「言い忘れていましたが、脳みそを持たないような雑魚は音に寄って来ることも」
「つまりこいつは」
「勇者さんの鈴の音に引き寄せられたようですね」
「魔除け……」
「す、鈴といっても色々あります。音の違いで魔除けになるんですよ、きっと! ほら、ぼくが持っている鈴には何も寄って来ませんし、これが魔除け鈴に違いありません」
「魔王さん、うしろ」
「えっ――うわぁいつの間にびっくりしましたこのやろめいつからそこに!」
「魔王さんが叫ぶたびに鈴が鳴りますね。やかましいな」
「あっち行けですー!」
「首につけているせいで逃げた先についていきますね」
「ハッ……! もしかして、鈴をつけない方が魔除けに……⁉」
「真実に気がついたようですね」
お読みいただきありがとうございました。
水琴鈴の音ってとてもきれいだと思います。
魔王「あーもう、寄って来るなー!」
勇者「鼓膜を破る音を出せば離れていくのでは?」
魔王「そんな大きな音が出る鈴は持っていませんよう」
勇者「魔王さんの歌とか」
魔王「なるほど名案――って、ちょっと」