387.会話 推しの話
本日もこんばんは。
今日はいい推しの日なんだそうです。すばらしい日だ。
「推しを得ると人生が平和になり穏やかになり楽しくなり色鮮やかになり幸せになり幸福になりはっぴーになり生きる力が湧くと言われています」
「劇物のような効果ですね」
「勇者さんも推しをゲットしてみてください。人生が豊かになりますよ」
「…………」
「なにゆえぼくを見るのです?」
「推しはいらないかな」
「えぇー! なぜです」
「まだ人間でいたいので」
「それはどういう」
「日頃の魔王さんを見ていると、推しは人間性を破壊することが確認されています」
「以前も似たような話がありましたね。ペットの話の時でしたっけ」
「あられもない魔王さんを見ていると、私は足を踏み外さないで済みます」
「ぼくがストッパーになっているのですね」
「仕方がないので、これからも人間でいようと思います」
「ぼく、先ほど助けた村の方から謝礼を受け取ったのですが」
「魔物を倒したのは私なんですけどね」
「装飾品を売るお店の方だったので、宣伝も兼ねて商品をいくつかいただきました」
「それがどうかしましたか」
「こちらをご覧ください」
「……まあ、いいんじゃないですかね」
「勇者様にプレゼントということなので、勇者さんに受け取ってほしいのですが」
「別にいらないです。私には似合わないですし」
「ほんとうですか?」
「……まあ、これ、とか」
「星の髪飾りですね」
「私はつけませんが、ミソラのおめかし用に使えそうです」
「それですっ‼」
「え、なに。勢いがこわい」
「自分に対するものでなくとも、推しに対しての情熱で日々の活力が湧くのです」
「うん……?」
「勇者さんは今、星の髪飾りをつけるミソラさんを想像しましたね?」
「かわいいかなぁと」
「それですっ‼」
「やかましいです」
「ごめんなさい。ともあれ、自分が好きな物や人に対し、意識を向けることは日常に彩りを加えるのですよ。勇者さんも、立ち寄ったお店で何かを眺めることが増えましたよね」
「あー……。ミソラに似合いそうな物を探したりしてますね」
「それが推し活です」
「なんか腹立つ顔だな」
「ナチュラル暴言も推しからであればうれしいものです」
「これがうれしいとかドン引き」
「できれば優しい言葉をかけてほしいですけども」
「髪飾り、いただいていいんですか?」
「もちろんです。勇者さんへの謝礼ですからね」
「耳の辺りにつけられるかな……。あ、いい感じです」
「きれいですねぇ」
「光の加減できらきら光ります。リボンと同じ金色がミソラによく似合いますね」
「人間でいうとイヤリングでしょうか」
「おめかしですね、ミソラ」
「勇者さん、ぼく以外には結構素直じゃないですかぁ……?」
「なにも変わりませんよ」
「えー、嘘ですよう。ぼくにはもっと一言二言あるじゃないですか」
「つい小言がね」
「ぼくにもおめかししていいんですよ? ほらほら」
「こういう髪飾りなどの装飾品、自分でも作ってみたいです」
「おおっ! ご興味が?」
「ミソラのおめかし用に」
「ご自分用じゃないのですか」
「自分のものを作ってどうするんです。要りませんよ」
「では、ぼくに作ってくださいな」
「だいじょうぶです」
「だいじょばなくて」
「ミソラは白と青がメインカラーだから、青色の装飾品も似合いそうですね」
「白と青ならぼくもそうですよっ」
「魔王さんは赤色ばかり選ぶじゃないですか」
「推しカラーで固めたくて」
「その調子でいけば、いつか見た目だけは魔王っぽくなりそうですね」
「概念の大勝利です」
「あなたの場合は、根本が間違っているんですけどね」
お読みいただきありがとうございました。
知らない方にお教えすると、魔王さんの推しはなんと勇者さんなんですよ……。
勇者「ミソラのおめかしグッズも増やしていきたいです」
魔王「その隣にぼくの勇者さんおめかしグッズも」
勇者「結構です」
魔王「じゃあぼくが持ちます……」