386.会話 番犬の話
本日もこんばんは。
犬を飼いたい衝動に駆られた勇者さんのお話。
「犬を飼おうかと思います」
「突然ですね。勇者さんは散歩が嫌なので飼うなら猫だと言っていませんでした?」
「好きなもの、嫌いなもの、大切なものは日々変わっていくものですよ」
「勇者みたいなことを言いますね」
「飼い主を守り、外敵を追い払う役目を持った犬がいると知りました」
「番犬のことでしょうか」
「すばらしいです。私だけの番犬を見つけにいきましょう」
「きみを守る役目を持つものという意味ではぼくも番――」
「犬種は何がいいでしょうか」
「聞いてください?」
「やっぱり大型犬ですかね。敵に噛みついて食い千切るのです」
「あの?」
「体当たりもいいですね。鳴き声で威嚇するのもよし」
「ぼくが泣きそう」
「世は犬の時代ですよ」
「お散歩が嫌なのはもういいのですか?」
「私、思ったのです。旅とはつまり、常に散歩しているようなものなのでは、と」
「ちょっと違うと思いますけど……」
「宿でゆっくりする時もありますが、大体は世界のどこかを歩いていますよね」
「ぼくたちは旅人ですから」
「もう散歩ですよ」
「違いますってば」
「これで犬の散歩クエストはクリアです。他に問題がありますか?」
「病院、食事、ケア……。生き物は簡単ではありませんよ」
「犬は忠実だと聞きます。魔王さんよりよっぽどいい子のはずです」
「ぼくもいい子です!」
「魔王なら悪い子にしてください」
「ぼくだって怪しい奴に噛みついたり追い払ったりできますよ」
「その姿で噛みつかないでください。絵面がやばいです」
「歯の硬さを甘くみてはいけませんよ。カチカチ」
「きれいな歯ですね」
「そ、そんな間近で見ないでくださいぃぃ!」
「一本一本抜いてやりたいです」
「物騒なこと言わないでください」
「犬も鋭利な歯……もとい牙で敵をぎったんぎったんにしてくれるのでしょう」
「かわいくないオノマトペですね」
「私に忠実で、私を守り、私だけの命令を聞き、私のそばにいてくれる番犬……」
「しもべが欲しいのですか?」
「そして、極めつけはもふもふの体です。私だけに好きなだけもふもふさせてほしい」
「やっぱりもふもふが好きなのですね」
「あっ。……今のナシで」
「慌てて真顔になりましたけど、隠しおおせていないものがありますよ」
「忠犬の番犬ならばなんでもいいです」
「被毛のないヘアレスドッグでもよろしいのですね?」
「…………せっかくならふわふわがいい」
「項垂れながら言わなくても」
「せっかくなら……、毛は硬めよりも柔らかめで、大きさは抱きしめられるくらいあって、ふわふわの向こうにぬくもりがあって、いつもはそばにいるけれど、ふとした時に寄り添ってふわふわを押し付けてほしい……」
「結構注文がありますね」
「最後に」
「まだあるんですか」
「魔王さんが盗撮するのを防ぎ、撮った際には制裁してほしい」
「ぼく⁉」
「魔王さんに噛みついてカメラを破壊する超強い番犬ですよ。どこにいるのかな」
「野犬は危ないのでだめですよ」
「飼い犬に手を出すほど愚かではありません」
「では、どこで探すのですか?」
「その辺の森?」
「森にいたら野犬確定ですよ。アウトです」
「じゃあどうしろってんですか」
「番犬として訓練されたワンちゃんをお迎えするしかありませんね」
「そんなのどこに――あれ? 向こうに犬がいますよ」
「ま、待ってください、勇者さん。野犬は狂暴ですから刺激してはいけません」
「遠くから見るだけです。三匹いるようですよ。わぁい、選び放題です」
「三匹……? あの、どうしてそう思ったのですか?」
「頭が三つ見えたからですけど」
「…………まさかケルベロスじゃないでしょうね」
「魔王さーん、ちょっくら捕まえてきますー」
「だめーーーー‼」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんに止められた勇者さん。
勇者「番犬うさぎとか……。犬よりうれしいです」
魔王「では、ぼくでもいいってことですね!」
勇者「だめですけど?」
魔王「そんな」