385.会話 ハロウィンの話その➁
本日もこんばんは。
一年ぶりのハロウィンですが、作中で一年経ったというわけではないです。そういうもんだと思ってお読みください。
前回は141話です。ご参考まで。
「このお菓子は……、ふむ」
「おはようございます、勇者さん。今日は何の日か、わかりますか?」
「かぼちゃの味がするお菓子……。なんでしたっけ?」
「無表情でもしゃもしゃ食べていますね。きゅーと!」
「魔王さんのその恰好はなんですか?」
「これですか? 前回の反省を活かし、ぼくに似合うコスプレグッズを事前に用意し、ばっちり着こなしてみたのです。いかがですか、魔法少女魔王ですよ」
「年齢を考えた方がいいかと」
「ぼくは永遠の十七歳です」
「やばいやつだ……。あ、魔王だからやばくていいのか」
「勇者さんの分もありま――」
「魔法少女は嫌です」
「……では、こちらのプリンセスでお願いします」
「もっと地味なやつがいいです。道端の草とか」
「聞いたことない仮装ですね」
「フリフリ過ぎません……? こんなの着られませんよ」
「シンデレラのドレスと書いてあります」
「頑張り屋さんのシンデレラさんですか。よくこのドレスを着て踊りましたね、彼女」
「プロのプリンセスですからね」
「アマのプリンセスがいるんですか」
「勇者さんのことですよ。そして、フェアリーゴッド魔王の力によってプロのプリンセス、略してプロンセスになるのです……!」
「今日はお菓子が多いですね」
「たくさん作りました!」
「食べていいんですか?」
「訊く前に食べているような気がしますが、いいですよ」
「テーブルいっぱいのお菓子、魔王さんの気が狂った魔法少女コスプレ、床に散乱する服、流しっぱなしのB級映画、扉の隙間からチラ見するかぼちゃ……。ここから導き出される答えは……!」
「一部参考にならないものがあった気がします」
「わかりました。今日は『世界B級映画観賞デー』ですね」
「キメ顔ありがとうございます。違います」
「かぼちゃ頭の魔法少女がサメから作ったステッキで変身し、敵をお菓子やスイーツに変え、食べて倒すハートフルコメディ作品ですよ」
「また変なの観て……」
「決め台詞は『トリックオアスイーツオアダイ』」
「命が軽い」
「生クリームの波に呑まれて死になさい」
「怖いのに怖くないですね」
「生クリームを立てながら言われても」
「お菓子を作ろうと思いまして」
「こんなにあるのに?」
「今日は何の日! はい、勇者さん!」
「勢いがなぁ」
「今日は何の日! ハロウィンの日! です!」
「前にもありましたね」
「トリックオアトリート~~。いえ~~い」
「朧げな記憶が正しければ、お菓子がない場合はいたずらされるんですよね」
「そうですね!」
「前回は魔王さんの企みがロリポップにより阻止されたり、魔王さん作の勇者衣装を着たり、魔王さんが魔王の服を着たりしましたね」
「朧げな記憶にしてはずいぶん鮮明ですね」
「何やらいたずらを計画していたようですが、こんなにお菓子を作ったら前回と同じことになりますよ」
「いいえ。ぼくは考えました。あの日の失敗を活かし、今回は特別ルールです」
「特別ルール?」
「『自分で用意したお菓子以外はカウントされない』です!」
「貧乏な私への当てつけですか」
「そういうつもりではありません」
「その辺の草でもいいですか」
「草はお菓子じゃないです」
「私にとってはお菓子です」
「特別ルールその二。『一般的にお菓子とされているものしか使えない』」
「あ、いま追加しましたね。ずるい。やっていることが魔王ですよ」
「ぼく、魔王ですもん」
「人間から強奪するには時間がありませんし、関わりたくないです。困りました」
「そういうわけで、勇者さん。トリックオアトリート! お菓子くれなきゃいたずらしちゃいますよ~」
「……」
「おやおや、お菓子を持っていないようですね?」
「…………」
「おやおやおやおや~?」
「やかましいです」
「ごめんなさい」
「お菓子はありませんが、爆弾ならあります」
「対抗して出されても困りま――あのまじで困ります着火しないでくださいあぶな」
「……お菓子はありません」
「あ、むすっとした! かわいい!」
「いたずらするならはやくしてください。お菓子食べたいです」
「い、いいんですか⁉」
「だって、そういうルールなのでしょう?」
「イベントごとを知らないのでルールには従順なのですよね……」
「なんですか?」
「いえいえ。では、満を持して登場するいたずらはこちら!」
「何この板」
「顔はめパネルです」
「得意げ魔王さんに説明を求めます」
「板もしくはダンボールもしくは紙もしくは何かに絵を描き、一部分を顔の大きさに切って楽しむものです」
「なるほど。ちなみに、何を描いたかお訊きしても?」
「勇者さんです!」
「このダークマターが?」
「どこからどう見ても勇者さんですよ?」
「あなたの目にはこう見ているのですか」
「上手に描けました!」
「パネルから顔を背けずに言ってみてください」
「上手に描け……ま……」
「描けま?」
「…………せん、でした……」
「正直でよろしい」
「前回のハロウィンの時に用意していたのですが、なかなか使う機会がなくて……。久しぶりに取り出したら想像以上にダークマターでしたね」
「視覚は正常で安心しました」
「やっと使ってもらえると思ったのですが……、ぐすん」
「ダークマターを形成する黒は髪の色ですね。すごいじゃないですか。色しか合っていませんよ」
「ぼくにもわかります。これは褒められていません」
「赤色がないのは顔を出せばいいのですね」
「そ、そうです。ぜひ!」
「……まあ、そういうルールのイベントですし、いいですよ。はい、どうですか」
「完全体勇者さんになりました!」
「九割くらいダークマターですけどね」
「かわいいです~。写真撮ってもいいですか?」
「だめです」
「ですよねぇ」
「頷きながらシャッターを押したの、見えていますよ」
「ぎくっ。そ、そろそろお菓子作りの続きをしなくては~」
「どこ見て泡立てているんですか。ちゃんと見ないと危ないで――へぁ」
「うわぁっ⁉ ご、ごめんなさい勇者さん! 生クリームが吹き飛びました!」
「前が見えない……。む、甘い……」
「パネルにもついてしまいました。ダークマターがホワイトマターに……」
「ホワイトマター……。あ、そうだ。魔王さん、それ貸してください」
「生クリームですか? いいですよ」
「これをパネルに……。ふふん、どうですか?」
「勇者さんが真っ白になりましたね!」
「魔王さんの番です」
「殺されるんですか?」
「そこに丸い穴があるじゃろう」
「おじい勇者さん」
「はやく顔をはめてください。泡だて器を顔面に突き立てますよ」
「恐ろしいですね。はい、どうでしょう?」
「九割くらい生クリームの完全体魔王さんになりました」
「女の子はお砂糖とスパイス、それと素敵な何かでできているので正解ですね!」
「魔王さんはカエルとカタツムリ、それと仔犬のしっぽの方ですよ」
「今のぼくは九割生クリームなのでセーフです」
「強引だな」
「丹精込めて作ったパネルも役目を終えましたし、そろそろお菓子を食べましょうか」
「生クリームがもったいないので、ちゃんと全部舐めてくださいね」
「本気ですか?」
「食べ物に失礼ですから」
「吹き飛んだのは事故なので許してください」
「よそ見した魔王さんが悪いです」
「うぐっ……。ごもっとも」
「でもまあ、板を舐める魔王さんは誰も見たくないので、今回はいいですよ」
「その言い方だと、次回は舐めるんですね」
「そうですね」
「気をつけますぅ……」
「それでは、お菓子を食べ――」
「待ってください。まだプロンセス衣装を着ていません」
「だいじょうぶです。結構ですの意味です」
「ドレス着ながらお菓子食べたら勇者さんじゃないですか?」
「言葉がおかしい」
「というわけで、ぼくも魔法少女になってみました」
「魔王さんの見た目が少女じゃなかったらこの作品は終わっていました」
「そこまで言わなくても」
「……ん? そのステッキはなんですか?」
「これですか? 星をつけたかったのですが、残念ながら売っていなかったので、サメの頭部で代用したものです」
「なんてすてきなステッキ……!」
「一応訊きますが、これでいいんですか?」
「『シャークデスイーツ・マジックパンプキンガール』のステッキそっくりです!」
「あぁ……、例の」
「よく出来ていますね。不器用魔王さんなのに信じられません」
「既製品をくっつけただけですからね。さすがのぼくでも作れました」
「いいなぁ……」
「勇者さんから熱い視線を感じる⁉ そしてこの珍しい物欲! よろしければプレ――」
「このステッキを振ったら敵がすべてお菓子やスイーツになるんでしょう?」
「なりません」
「むぅ……。まるで本物なのに……」
「不満そうなお顔でステッキをぶんぶん振っておられる」
「納得いかないので雑魚敵を倒してきます」
「外出するなら仮装しましょうよう」
「プロンセスは嫌です。おや、このかぼちゃはなんですか?」
「勇者さんと作ろうと思って買ってきたジャック・オー・ランタンですよ」
「以前も見ましたね。中身が空洞……、ピーン」
「まさかとは思いますが、勇者さん」
「これを被ります。ジャック・オー・勇者です」
「人間に紛れた魔族も逃げ出す見た目ですよ」
お読みいただきありがとうございました。
前回考えていたいたずらはパネルではなかったと思うのですが、完全に忘れました。そういうもんです。
勇者「パンプキンスイーツおいしい」
魔王「ジャック・オー・ランタンを脱いで言ってくれませんかね」
勇者「何か問題でも?」
魔王「絵面がやばいんですよ」