384.会話 ホームビデオの話
本日もこんばんは。
今日はホームビデオ記念日だそうですよ。いろんな日があるんですねぇ。
「今日はいいお天気ですねぇ。あ、真っ白な鳥さんが! 勇者さん、見ました?」
「見ました。……ていうか、さっきからなんですか?」
「はて?」
「ビデオカメラ回しながら話しかけてこないでください。壊しますよ」
「問答無用で壊さない勇者さん、お優しい」
「お望みならばそうしますが」
「いえいえ、ご勘弁を。勇者さんはホームビデオというものをご存知ですか?」
「……魔王さんがいま撮っているもの?」
「正解です。ホームビデオとは、家族を撮って家族で観賞するビデオのことです」
「不正解じゃないですか」
「どの辺が間違ってました?」
「曇りなきまなこで訊かないでください。すべてです」
「おかしいですね。ぼくの中では大正解ですよ」
「あなたは存在自体が間違えみたいなものですけどね」
「いやぁ、えへへ」
「照れるところも間違っています」
「冷たい目をする勇者さんもばっちりビデオに収められていますからねっ」
「映すものも違うと思いますよ」
「勇者さんを映さないビデオカメラとか必要あります?」
「あなたの愛する人間どもを撮ればいいでしょう」
「いま撮ってます」
「そうじゃなくて……、はあ、話が通じません。これだから過激派は」
「熱くなってきましたねぇ!」
「おひとりで盛り上がっていてください」
「カメラが!」
「そっちかい」
「長時間回し過ぎてとんでもない発熱です。爆発するかもしれません」
「そしたらデータはすべて消えますね。私的には大歓迎です」
「はやく冷やさなくては……! 氷はありましたっけ」
「どうぞ」
「どうぞって、これは氷じゃなくて本ですよ」
「『ありとあらゆるものを凍らせる世界のダジャレ百五十二選』です」
「微妙な数ですね」
「精鋭により選び抜かれた渾身のダジャレが収録されているそうです」
「絶妙に読みたくないですね」
「ビデオカメラを本の上に置けば、あっという間に冷えるはずです」
「ぼくは物理的な冷却を求めているのですが」
「おっ、かなり冷たくなってきましたよ」
「そんなまさか」
「私の手が」
「勇者さんの手⁉」
「氷を直接握ったので痛いです」
「なにしてんですかいつからですかどこから氷なんてとりあえず離してください!」
「ビデオカメラで魔王さんの視界が狭まっている間に、魔王さんのひらひら袖部分に氷を入れるいたずらをしようと思って準備していたんです」
「いたずらの時ばっかりちゃんと準備するんですからぁ!」
「しまう場所がなかったので握りしめていました。溶けちゃった……」
「勇者さんって、たまにIQが著しく低下しますよね」
「いやぁ、えへへ」
「照れるところではありませんが、照れるフリをする勇者さんもかわいいですね」
「こうして魔王さんの意識が私に向いている間にビデオカメラを回収する作戦です」
「アッ! いつの間に!」
「これも写真と同じように、魂を抜き取ることができるんですか?」
「できませんよう。写真の話も迷信とされていますし」
「小さな画面の中に魔王さんが見えます。光輪の存在感がうるさいですね」
「そりゃあ、これだけ近くで撮ればね」
「何も見えませんよー」
「当たってます。ぼくの服にめり込んでいます」
「真っ暗だぁ」
「押さ、押さないでくださいイタタタタタ」
「あ、電源が切れました」
「充電しないといけませんね」
「なんにも撮れませんでした」
「半分くらい勇者さんのせいですよね?」
「ドアップの光輪ムービーなんて誰が見るんですか?」
「勇者さんが撮ったんですから、勇者さんが見るんですよ」
「えぇー、つまらない。魔王さんも道連れにします」
「ぼくだって光輪ムービーは興味ない――あれ? でもふたりで見るということは……」
「なにか言いました?」
「気が変わりました。はやく見ましょう!」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんにすぐバレるのでビデオは難易度が高い(魔王談)。
勇者「光輪ムービーの何がおもしろいのやら」
魔王「この時間が大切なのですよ」
勇者「これが終わったらB級ホラー映画観ましょうね」
魔王「悔しいですが、光輪ムービーよりはおもしろいと思います」