382.会話 骨董品の話
本日もこんばんは。
壺や皿の良さに気づく日が来るのでしょうか。
「こういう壺とか皿とか、一体なにがいいのでしょうね」
「ただ古いだけではなく、希少価値がある物が骨董品ですよ」
「そう言われましても」
「まあまあ。魔物に襲われていた蔵が無事でよかったじゃないですか」
「謝礼で一つくらいくれませんかね」
「骨董品の価値は時代と人が決めるものですからねぇ」
「価値はよくわかりませんし、古いことの利点もよくわかりません」
「趣があったり、味があったり。古き良きってことですよ」
「作ってどれくらい経てば古い物になるんですか?」
「例のごとく百年程度といわれています」
「付喪神を思い出しますね」
「大切にされていればよいのですが」
「そういうことを言わないでください」
「人間界において、形あるものは壊れやすいです。ゆえに、長い時間残っているというだけで歴史的な価値が生まれるのですね」
「古いものは古いだけで価値がある……。ハッ」
「なにゆえぼくを見るのですか」
「圧倒的古さを誇る魔王さんの価値は一体」
「ぼ、ぼくは物じゃないですよう!」
「売ったらいくらですか?」
「プライスレスです! ……たぶん」
「これで私も豪遊できる」
「お望みならばいつでも言ってください。こちらに金貨がわんさか」
「壺とか皿が泣きそうですね」
「お望みならば壺や皿もプレゼントしますよ」
「いらないです」
「あんまり物欲がないですもんね」
「動き出したら嫌なので」
「あ、骨董品の方ですか? だいじょうぶですよ。百年経ってはい付喪神、では骨董品屋が大変なことになりますから」
「自分を売る骨董品が出てきそうですね」
「そういう意味で言ったのではないですけどね」
「『私を買うのにたったの金貨五枚とは良い度胸だな』」
「かなり上から目線の骨董品ですね」
「『丁寧に手入れをしなかったら棚から落ちてやるぞ』」
「捨て身の脅し」
「『刺身は許すが煮付けは許さん』」
「お皿特有のプライドがあるのでしょうか」
「文句言うやつは全部ぶっ壊します」
「荒々しい骨董品で――って、今のは勇者さんですね」
「長い間使われているだけ幸せなんですよ。まだ何かを望むか」
「誰ですか?」
「皿なんていい人生ですよ。割れたあともダイイングメッセージに使えますからね」
「かなり限られた用途ですけども」
「壺だって入れるものがなくなっても愚痴を叫ぶために使えます」
「叫ぶために壺を置いておくのもって感じです」
「とはいえ、物は劣化します。いくら古いものにも価値があると言われても、限度はあると思うのですよ。それが百年なのかもしれませんけど」
「たしかにそうですねぇ。ですが、古さを感じない骨董品もあると思いますよ」
「例えば?」
「ミソラさんとか」
「えっ。ミソラって作られてから百年以上も経っているんですか?」
「おそらく。聞いた話ですが、トイの国には特殊な技術があったようでしてね、百年以上品質を保つことができるそうなのです。その中でも、ミソラさんは特に大事に大事にされてきましたから、作られた時とほぼ同じ状態を保っているはずですよ」
「すごい」
「素直な勇者さんだ」
「私も大事にします」
「改めて言わずとも、普段のきみとミソラさんを見ていればわかりますよ。ぶっちゃけ羨ましいです。ぼくも大事にされたい」
「やだ」
「素直な勇者さんだ」
「骨董品といえば、たまに勇者が使っていた剣とか防具とか売られていますよね」
「全部うそっぱちですけどねぇ」
「かなり高値で取引されているようですが」
「どっからどう見ても偽物なのにねぇ」
「『勇者の』と付ければこの壺や皿も高値で……?」
「そもそも人様の物ですからね?」
「これは勇者がダイイングメッセージを書くのに使った皿の破片です」
「いわくつきじゃないですか」
お読みいただきありがとうございました。
歴代の勇者はみんな死んでいるので全部いわくみたいなものですね。
勇者「いつか、この大剣も高く売れる日が……」
魔王「売ってどうするんですか?」
勇者「新しいものを神様からもらい、また売ります」
魔王「やっていることが詐欺手前ですよ」