380.会話 勇者の短剣の話
本日もこんばんは。
何かと話題(当社比)の短剣のお話です。
「きみは、大剣の手入れはほとんどしないのに、短剣は毎日丁寧にやるのですね」
「……いけませんか?」
「いいえ。物を大切にすることはよいことですよ」
「見ても面白くありません。あなたはテレビでも観ていてください」
「ぼくは勇者さんを見ている時間が好きです!」
「うわ、近寄ってきた」
「じっくり見ようと思いまして」
「やめてください刺しますよ」
「迷いなく目に向けるところ、危ないですがいいですね!」
「なんでもかんでも褒めればいいってもんじゃありません」
「すみません口から勝手に出るものですから」
「縫い付けましょうか」
「恐ろしいことを」
「………………」
「とてもきれいですね」
「切れ味も抜群ですよ。試してみますか?」
「ぼくでやるならいいですよ」
「じゃあいいです」
「そうだ勇者さん。その短剣に名前をつけませんか?」
「私たちの名前もないのに。……ってこれ、二度目ですね」
「かわいい名前をつけましょう~。かっこいい名前でもいいですよ」
「いらないですよ。だってこれは、すてきな物じゃないんですから」
「だからですよ。すてきな名前を贈呈して、すてきな物にしちゃいましょう」
「うーん、気乗りしないですけど……。そうですね、では『田中』で」
「田中」
「『鈴木』がいいですか?」
「そういう問題ではなく」
「なにが不満なんですか」
「どうせなら『星宮』とか『夜野』に――って、そうじゃなくて」
「ひとりで元気ですね」
「ぼくの想像している名前ではなかったゆえ……」
「一応訊いてあげましょう。どんなものを想像していたんですか?」
「『勇者さんを絶対守る圧倒的な輝きを持つ短剣ちゃん』とか」
「長いな?」
「『いつも勇者さんのそばにあってめちゃくちゃ羨ましい短剣』とか」
「私情」
「『毎日手入れされていていいなぁ。ぼくもお手入れされたいな短剣』とか」
「とりあえず最後に短剣を付ければいいと思ってます?」
「いかがでしょうか」
「いかがされても困るネーミングやめてください」
「だってぇ! 短剣お手入れ中はぼくに構ってくれませんし、いつも以上に表情筋が死んでいるので不満なんですよう! 一緒に遊びましょうようぅうぅぅ~」
「うるせえんですよ。いざという時に使えなかったら困るでしょう」
「いざという時に最大の力を発揮できるよう、ぼくもお手入れしてください」
「真面目な顔で何を言っているんですか?」
「ミソラさんにやるみたいに、頭をなでなでしてください!」
「プライドって言葉、知ってます?」
「お望みならば変化魔法で姿を変えますよ」
「望んでいません」
「ふわっふわでもっふもふのうさぎさんに」
「うっ……ぐ、いいです。結構です」
「いっそ、短剣もふわふわにしますか?」
「ちゃんと考えてしゃべってます?」
「ぼく今なに言いました?」
「数行前をご覧ください」
「頭をなでなでしてください!」
「戻りすぎ戻りすぎ」
「ふわもふの勇者さんもすてきだと思うんですぅ!」
「もはや意味がわからないのですが」
「今日は勇者さんの短剣タイムが長くて不満なんですよう~……」
「変な名前をつけないでください」
「ぼーっとお手入れしているとケガをしますよ」
「魔王さんが話しかけてくるとケガをしそうです」
「へぐぅっ⁉」
「まあ、今日はこれくらいでいいでしょう」
「終わりましたか?」
「魔王さんの構ってオーラがすごいので」
「えっへへ~、ではおしゃべりしましょう」
「先に飲み物を取ってきます。ここで待っていてください」
「はーい。……短剣、やっぱり肌身離さないのですね、勇者さん」
お読みいただきありがとうございました。
お手入れされている短剣の切れ味は抜群です。
魔王「眠るときくらいは外してもいいと思うのです」
勇者「いざという時の防御用ですよ」
魔王「ぼくがそばにいるのに?」
勇者「だから、魔王さんが潜り込んできた時用ってことですよ」
魔王「うぐっ」