38.会話 敵の話
本日もこんばんは。
平和な敵の話です。
「『敵の敵は味方』という言葉があるじゃないですか」
「共通の敵を前にしたら敵同士でも手を取り合うとかなんとかですね」
「私、思うんですけど、いくら共通の敵がいたとしても、敵は敵ですよね」
「珍しく真面目な顔をしていると思えば、そんなことですか」
「重要ですよ。利害の一致のみで手を取り合えますか?」
「敵レベルの違いや、脅威度じゃないでしょうか。こいつも嫌いだけど、あいつの方が嫌いっていう」
「どっちも嫌いならどっちも倒せばいいのでは」
「考え方が脳筋なんですよね」
「嫌いなやつと手を協力関係になる方がストレスです」
「普段いがみ合っている者同士が、強大な敵の前で一時休戦し、手を取り合う。人はそういう王道展開を好むのですよ」
「仮に協力したとして、共通の敵を倒したあとが気まずくなりません?」
「そこはほら、協力したことで分かり合うルートが開かれるんですよ」
「分かり合えなかったから敵なんじゃないんですか」
「吊り橋効果みたいなものです」
「大切な人を殺された、とかいう理由でも分かり合えますかね?」
「あー……。無理かもですね」
「でしょう。やっぱり敵は倒してなんぼですよ」
「分かり合えるボーダーラインはあるでしょうね。性格の不一致程度なら可能かと」
「故郷を滅ぼされた、愛する人を殺された、何もかも奪われた系は無理ですね」
「系ってなんですか。たしかに無理ですけど」
「それに、敵は敵のままでいてほしい欲もあるんですよ」
「味方になった途端、弱くなる現象もありますよね」
「敵だからこその魅力といいますか。視点が変わると見えてしまうこともあります」
「見えた部分が魅力かどうでないかは人によりますからね」
「幻滅するなら見えない方がましです」
「なるほどなるほど。ところで、なんの話ですか、これ?」
「敵の敵は敵の話です」
「それはわかりましたけど、どうして倒した魔物の上で話しているんですか」
「敵ってなんだろうなぁと思いまして」
「考え始めて止まらなくなっちゃったんですか」
「勇者の敵は魔王で、それに紐づく魔族魔物たちです」
「そうでしょうね」
「では、私の敵はなんだろうと考えました」
「なんでした?」
「私以外」
「んな極端な」
「簡単な話です。勇者として魔王魔族魔物は敵です。それ以外は人間です。人間は私の敵です。つまり全部敵です」
「極端ですねぇ。でも待ってください。勇者さんが嫌いな人間が敵はいいとして、勇者さんの勇者である部分を除けば、敵は減りますよ」
「魔王魔族魔物が残りますが」
「つまり、そういうことです。えっへん」
「魔なるものは人間の敵だと思いますが」
「結局同じことになりますね。ええーん、ぼくが味方の立ち位置にいけると思ったのに」
「それ、敵の敵は味方理論で考えていません?」
「勇者さんの敵は人間、人間の敵は魔王。つまり魔王は味方。あ、ほんとですね」
「私は敵の敵は敵理論を主張しているんですよ」
「となると、勇者さんの敵は人間、人間の敵は魔王。つまり魔王は敵……。がーーん‼」
「がーんて。なにを今さら」
「順番を変えましょう。人間の敵は魔王、魔王の敵は勇者、勇者の敵は……あれれ?」
「順番を変える意味がないことを伝えようか、伝えないべきか」
「あっ、いい方法がありますよ。魔王じゃなくて魔族にすればいいんです」
「スーパー本末転倒スタイル」
「うえええん……、どうあがいても敵になるじゃないですかぁ……」
「最初から敵ですからね」
「まるでバッドエンド確定物語のテキトー設定ですよう」
「どんな物語ですか」
「まだです……。まだ道はあります……! ぼくはそれを、漫画を持参した勇者さんから教わりました。マイバイブルだから読めと手渡された漫画で知ったんです。バッドエンドを回避する方法を!」
「魔王退治に漫画を持参するな」
「やはりハッピーエンドには王道が救い。勇者さん、共通の敵を見つけましょう!」
「共通の敵って、自分たちより強くて脅威である存在ですよね」
「その通りです」
「ちなみに、この世界で一番強くて脅威とされている存在って誰かご存じですか」
「へあ? 誰ですか?」
「魔王さんです」
「あらぁ……」
お読みいただきありがとうございました。
“敵の敵も敵”派の天目です。
勇者「この世に魔王さんより強くて恐い敵が出てくればいいんでしょうか?」
魔王「ぼくより強い存在なんていませんよ?」
勇者「綺麗な目でおっしゃる……」
魔王「あ、でもですね、とっても尊い存在という意味で勇者さんに勝る人はいない――」
勇者「この世はすべて敵。はい、おしまい」
魔王「うむぅぁぁうあ……」




