379.会話 靴の話
本日もこんばんは。
勇者さんの靴は歩きにくいと思います。
「勇者さんっていつもその靴ですよね。予備は持っていますか?」
「持っていると思いますか?」
「思いませんね。例のごとく」
「神様にセクハラされてからずっとこの靴です。訴えてやる」
「靴を履いている時は、枷飾りは見えませんね」
「そうですね。裸足の時だけです」
「靴を履いている時に気になったりしませんか?」
「もう慣れました」
「新しい靴がほしかったら言ってくださいね。ありとあらゆる靴を買います」
「足を置くだけで勝手に装着されるものがほしいです」
「足を差し出すから履かせてあげてもよろしくてよ? ってことですか」
「耳鼻科をおすすめします」
「勇者さんの声だけ、どこにいても聴こえる聴力が」
「あるんですか? 気味が悪いですね」
「ないです――と言う前にダメージをくらいました」
「今のは魔王さんが悪いです」
「悪くていいですもん……。だってぼく、魔王だもん……」
「靴と言えば、魔王さんが履いているそれも歩きにくそうですよね」
「脱ぎましょうか?」
「なんで?」
「ぼくの裸足が見たいのを遠回しに言ったのだと思いまして」
「脳外科をおすすめします」
「裸足の美少女ってすてきだと思いませんか? 今、きみの前にいる子とか」
「私の前……。木々に実がなっています。食べられるのかな」
「眼科行きましょうか?」
「レストランがいいです」
「レストランで何の検査をするんですか」
「そりゃあ、胃袋検査ですよ。裸足だと入店できませんので、私ひとりで行きますね」
「すぐ履きます!」
「この靴で荒道を進んできたので何も思いませんでしたが、旅用ではありませんよね」
「そうですね。オシャレ用かと」
「神様に心ってあるのでしょうか」
「ないと思います。あったらあったで腹が立ちますね」
「足に優しくて歩きやすい靴ってなんですか?」
「ぼくが特注で作った靴ですね」
「そういうことを訊いているんじゃないんですよ」
「ポシェットに入れてあるので、いつでも言ってくださいね」
「え、いつから」
「きみを見た時から『かわいいけど歩きにくそう~!』と思ったので」
「思ったので?」
「そのすぐあとに作っておきました」
「最初期」
「足に優しい、歩きやすい、かわいいの三点を兼ね備えています」
「ちょっと待ってください。そこまで最初期だとサイズも知らないはずです。いや、教えていないので今も知らないはずですけど」
「それはほら、なんかこう、魔王ぱぅわぁーとか、えへへ、いやぁ、てへ」
「……まさか私が寝ている間に」
「く、靴の方を拝借しただけですよう! 勇者さんには触れていません!」
「最初期が一番魔王っぽい悪事していません?」
「今は……」
「魔王っぽくない……」
「そっか……。善処しますね……」
「だからといってハグは嫌です。近寄るな」
「ま、まだ何もしてませんし、言ってませんよ」
「悪事を働こうとしてハグをするって、絶対間違っていますよ」
「ぼくはハグを悪事だとは思っていません」
「私が寝ている間に靴のサイズを測ったのは?」
「未だに後ろめたさを感じます」
「精神よわよわじゃないですか」
「心が痛い」
「黙って靴のサイズを測り、勝手に新しい物を作って長らく所持していただけで?」
「説明されると威力が上がりますね」
「どうせ、靴の話を振ったのも、私にそれを履いてほしいからでしょう」
「よくおわかりで!」
「ちなみに、どんな物か見せていただいてもよろしいですか」
「もちろんです。ぼくが趣向を凝らしてデザイン案を決めた靴です。どうぞ」
「一応、名前とかあれば聞きますよ」
「『これを履けばきみもプリンセス! きゅーとでせくしーなガラスの靴風靴』です」
「びっくりするくらい要らない……」
「びっくりするくらい無表情で言われた……」
お読みいただきありがとうございました。
特注品はポシェットの奥深くに消えていきました。
魔王「次は勇者さんの意向を反映した靴を作りますね」
勇者「私を巻き込めば合法ですもんね」
魔王「毎日違う靴を履きましょう!」
勇者「めんどくさいしもったいない」