377.会話 もらい泣きの話
本日もこんばんは。
この作品で泣いたら涙腺の異常を疑った方がいいです。もしくは疲れているので寝てください。
「うええええぇえぇぇえ~ん。ずべべべべべべべべ」
「見たこともない泣き方に困惑を隠せない勇者です、こんにちは」
「うわぁああ~ん。ずばばばばばば」
「いい加減、泣き止んでください。道行く人の視線が痛いです」
「ずみばぜん~……。涙が止まらなくてぇ……」
「はあ……、魔物に襲われ、四年間意識が戻らなかった少女が目を覚まし、家族と感動の再会を果たす、ですか。まるで小説のような出来事でしたね」
「よがっだですねぇぇぇぇえええええぇぇん。べべべべべばばばばば」
「泣き方おかしくないですか?」
「感動しまして」
「強制連行されたから何事かと思いきや、人間は勇者を何だと思っているのでしょう」
「ですが、実際に少女は目を覚ましたよ」
「偶然ですよ。傷が回復し、起きたのが今日だっただけです。その時に、たまたま勇者が通りかかったというだけ。奇跡の力なんてありはしません」
「まあまあ、結果オーライということで」
「穏やかに言っていますが、目からも鼻からも出ていますよ」
「ハンカチもティッシュも足りません」
「はあ………………、どうぞ」
「先ほどよりも深いため息でしたね。ありがとうございます」
「あなたはよく感情をもらいますよね。元気なことです」
「気がつくと涙が出ています」
「疲れませんか?」
「揺れ動く感情に身を任せるというのは確かな感覚を連れてくるものですよ」
「珍しく難しいこと言ってる」
「め、珍しくは余計です」
「小説を読んでいる時も映画を観ている時も、忙しいひとだなぁと思いますよ」
「おかげでめっちゃ疲れます」
「疲れるんかい」
「心地よい疲労です。満足です」
「特殊な趣味……?」
「勇者さんも一緒にいかがですか?」
「変なことに誘わないでください」
「たまにはパーッと笑ったり泣いたり喜んだり叫んだりしましょう」
「叫……?」
「すっきりしますよ」
「結構です」
「人様の幸せを見ると心があたたかくなります。特に、勇者さんがうれしそうだとぼくもうれしいのです。特に。特に!」
「これ見よがしに強調しないでください」
「勇者さん、幸せになってください。いえ、ぼくが幸せにします!」
「決意表明はいいですが、結構です」
「そんな。うええええぇえぇぇえんずべべべべ」
「うわ、また独特な泣き方」
「一緒に幸せになりませんか?」
「大々的にハッピーエンドと書かれた映画を手に持っていなければ色んな解釈ができそうなセリフですね。近寄るな」
「一緒に幸せになりませんか?」
「なんだろう、セリフ自体は良い内容のはずなのにこわい。圧のせいかな」
「『全米の涙がちょちょぎれた』映画ですって」
「普通に泣けよ」
「ぼくはあらすじを読んだだけで泣けます」
「涙腺に異常があるのではないでしょうか」
「パッケージに描かれた泣いている人間の絵だけでも泣けます」
「もらい過ぎでは?」
「涙は涙を誘うんですよう」
「あからさまなお涙頂戴はちょっと」
「笑顔頂戴ならいいですか?」
「聞いたことないやつきた」
「ぼくは勇者さんのスマイルがほしいです」
「当然のように金貨を渡さないでください」
「勇者さんが金貨をもらうと金貨が喜び、その金貨を見たぼくも喜ぶんです。これをもらい喜びといいます。もらうだけに」
「泣かせましょうか」
「い、一緒に笑顔になりましょうよう」
「あなただけ笑ったり泣いたりしていればじゅうぶんです」
「そんなこと言わずに」
「ていうか、魔王さんは私の分まで感情を爆発させているような気がします」
「といいますと?」
「ちょっとやかましいです」
「あ、これは本音ですね」
お読みいただきありがとうございました。
涙腺へにょんへにょん魔王さん。
勇者「絵に描いたようなハッピーエンドでしたね」
魔王「すばらしいじゃないですか~」
勇者「ここまでうまく物語が進むと裏があるような気がします」
魔王「勇者さんから素直を奪い取った世界は許しません」